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だが、ビッキーの言うところもあながち嘘ではなさそうだ。日本史でも元寇や朝鮮出兵、蘭学の流入や黒船来航、幾度となく他国と接触している。そして戦後から昨今に至るグローバル化で、それはますます顕著になった。
「まだ、あんたが何者か知らないけど、ひとまずは信じることにする。だけどひとつだけ訊かせてほしい。あなたは何をするつもりなの?」
するとビッキーは日本茶で口を直してから答えた。
「何もしない」
――何もしない?
そんな馬鹿な話があるわけがない。ここまでの人口を集めておいて、ヴォルガ・ヴァリスやムスタファやレミーのような強力な接触者を手駒に置いておきながら何もしないなんてことがあるわけがない。
「正直に答えてよ!」
春花は握っていた箸をテーブルに叩きつける。
「厳密に言うと、機会を与える。これから地球意思が起こすであろう未曾有の天災によって多くの人々が死ぬ。そして、生き延びた人類は私と同等の力を手にする。私は何もしない。ただ、人類が何を選び、どんな未来を作るのか。ただ、それを見守るだけだ」
それはもう知っている。だけど、生き延びた全人類がそんな力を手にしたら――。もし、私利私欲のために、こんな大きな力を振るったりなんかしたら……。
「それこそ地球が滅ぶかもしれないじゃん」
「そんなことはわかりきっています」答えたのはムスタファだった。「人がみな一度で正しい答えを導き出せるとは到底思えません。だから、正しい未来に辿りつくまで何度でも繰り返すのです」
つまり、すべての人が有り余る力を行使して絶滅するのは計算のうち。次の世代も同じことを繰り返すことを見据えた上で言っているのだろうか。
この世界は、そうやって終わりの無い争いを繰り返し、今なおも続けているというのに。
「それは何年……。何百年先の世界の話をしているの?」
ビッキーは湯飲みを両手で包み込むようにして日本茶でひと息休めると、穏やかに言った。
「ざっと千年」
――第九話『千年の人魚姫』
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