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日本が恋しい。
家族が恋しい。友達が恋しい。
鉄雄は早く大人になりたいという思いから高校を卒業したら大学へは進学せず、適当な会社に就職をするつもりでいた。そのため、受験勉強に忙しい学校の友達とはあまり遊ばなくなり、バイト先のファミレスの仲間とばかりつるむようになっていた。
大学生のバイト仲間と内緒で店の酒を飲んだこともある。
大学の一回生で、バイト先の深雪先輩に密かな恋心を抱いていたことを思い出す。同じ高校で小学生の頃からの腐れ縁で仲のよかったミッタンやタケちゃんとも、もっと遊んでおけばよかったと後悔する。
すべてはもう、あの地獄の夜の炎のなかだ。
いつの間にか、涙はあとからあとから溢れるばかりで、夢中になって黒肉を塊のままかじっていた。
生きてる……。
トマトスープを缶のまま飲み、パンを千切っては口に放り込む。喉につっかえて、慌てて水を飲む。
そうか……自分はまだ生きたかったんだ。
深雪先輩も、ミッタンもタケちゃんも、まだまだもっと生きたかっただろう。
だが、すべてはあの夜に焼け落ちた。
あいつが……あの黒い巨人が……。すべてを奪った。
そして気がついた。このからっぽの肉体に残された感情は、失意だけではないということに。この肉体は、何も脱け殻だけではなかったということに。
怒りだ。この生きたいと願う感情は、煮えたぎるような怒りだ。煮えて煮えてこらえようのない、マグマのように冷たい怒りだ。
「深雪先輩……将来は料理研究家になるって言ってたな」
ふと、口に出していた。
「ミッタンは小学生の頃からずっと親と同じ薬剤師になるのが夢って言ってたな……。タケちゃんは、とりあえず経済学部に入ってから、やりたいことを探すって……」
涙が落ちてパンに染みを作る。それも気にせずかぶりつく。
「なんで……なんで何も考えずにへらへら生きてた俺だけ……!」
もちろん、その怒りはすべて自分へのものだった。それもそうだ。憎むべき相手は地球意思。地球そのもの。ちっぽけな一人の人間がどれだけ怒りを燃やしたところでどうにかできるような存在じゃない。
何もできなかった、ちっぽけな自分への怒りだ。
そんな自分によくしてくれる新菜のことを思う。新菜は強い。少なくとも鉄雄よりかは誰かを助けている。当事者じゃないから簡単に人助けなんて真似ができるんだと思っていたが、そうじゃないかもしれない。もしかしたら、今の鉄雄なんかよりもずっと現実を見ていて、ちゃんと当事者だ。
少しくらいなら、外の景色を見てもいいかもしれない。涙が乾いたら、部屋から出てみようと思った。
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