ポケットに恋心

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 ここ数日、気温の上がり下がりが激しく、路面はツルツルのアイスバーン状態。そこに昨晩、薄っすらと雪が積もったせいでつい油断してしまう。  「今日も滑るから、気をつけてな…日中も気温上がるらしいから、それはそれでまた滑るから」  登校途中、少しだけ傾斜になっている場所に、町内会長さんが滑り止め用の砂を()いてくれていた。  「うん、ありがとうございます。会長さんも…」  会長さんの忠告を頭に置いて、氷が見えない所でも、小股でチョコチョコと足をスライドさせて歩く。足の底全体が地面に着くように、そして少し小走りくらいの方が逆に転びにくい。十六年…いや、二足歩行ができるようになってから十五年にもなると、北国で育った者ならば、滑る冬道の歩き方くらい心得ている。  油断なんかしないもん…  周りの車と足元に神経を集中させて、どうにか無事にバスに乗り込み、ふぅ…と、緊張を解いて外を眺めた。  朝日のオレンジを反射させた家々、冬木には雪の蕾。飛んできたカラスが電線にとまり、薄っすら積もっていた雪がハラリと零れ落ちる。その落ちてきた雪が、朝日に照らされて煌めいた。  寒い冬は大嫌いなのだが、雪が降った翌朝の晴れた日に見せる幻想的な景色は、どう頑張っても嫌いにはなれない。  七つ目のバス停。いつも相馬くんが乗ってくる停留所。  鞄から手鏡を取り出して、私は前髪を整えた。  相馬くんの姿を確認する前から、ドキドキと私の心臓は早鐘を打つ。そして、チェックのマフラーに顔をうずめた相馬くんがバスに乗り込んで来るのを目視して、私の心臓は口から飛び出しそうなほどに暴れだす。  あまりに凝視しすぎていたかもしれない。相馬くんと一瞬パチリと視線がかち合った。鼻の頭が赤くなっている相馬くんは、表情を変えることなく私に軽く会釈して、フイっと視線を逸らした。    ドキドキドキドキ…  私は鞄の中の手紙を意識して、いつまでも心臓は落ち着いてくれなかった。  
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