ポケットに恋心

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 日中、気温が上がったのか、路面の氷が少し溶けて、所々にアスファルトが見えていた。だから私は完全に油断していた。  今朝の町内会長さんの言葉が、今さら頭の中でリフレインする。  氷の表面に薄っすら解けた水のせいで、私は激しく滑って宙を舞った。  私の視界は、除雪されて積まれた白い雪山と相馬くんを捉えていたはずだった。だが、あっという間に、空の青に浮かぶ薄いレモン色に染まった雲を仰いだ。そして、続けてビリビリっと何かが破れるような異様な音と、お尻に痛みを感じた。  それはあまりに一瞬の出来事だったのだが、どういうわけか、目に映るものがスロー再生するかのようだった。  それなのに、ドシンと体が地面に倒れ込んだ瞬間、自分に何が起こったのか、頭が真っ白になって理解できなかった。  「痛たた…」  「だ、大丈夫?」  空色と薄レモン色と白の世界に、相馬くんが現れた。  相馬くんは眉を下げて心配そうに私を見下ろす。そして、直ぐに相馬くんの表情が緩んだ。  「綾瀬さん…手!ぷくく……ポケット!」  相馬くんは笑いを堪えながら、私の体を指さした。  私は指さされた方へと視線を向けると、私の左手がコートのポケットを突き破って飛び出していた。  「えっ!嘘…」  私は、ポケットに手を入れたまま滑ってバランスを崩したため、咄嗟に動いた手があらぬ方向にエネルギーを発したのだ。  私は、私に向けられた相馬くんの笑顔にドギマギしていたのだが、ポケットから飛び出した自分の左手を見て、突として現実へと引き戻された。  それはもの凄く滑稽で、私は恥ずかしくなり、慌てて左手をポケットから抜き出した。  シュルリ…  勢いよく引き抜いた拍子に、ポケットに入れていた薄桃色の封筒が相馬くんの足元へと飛び出した。  ―――あ…
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