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相馬くんは「なんか落ちたよ…」と、薄桃色のそれを拾い上げた。
「手紙…」
まさか、こんな風に相馬くんの手に渡るとは…
心臓が胸を突き破る勢いでバクバクいって、私はどうしていいかわからずに、相馬くんを直視できずに俯いた。
「笑ってごめん。大丈夫?あの、これ――…」
相馬くんはそう言って、ほんの刹那、沈黙した。
「え?俺…宛て…?」
私はコクンと小さく頷いた。
相馬くんはどんな反応をしている…?
そう思いながら、恐る恐る相馬くんの方を見た。
すると相馬くんは、顔を真っ赤にさせて、チェックのマフラーを鼻が隠れるまで引っ張り上げて顔をうずめた。隠しきれていない耳までもが赤くなっている。
「不意打ち…」
相馬くんはそう言って、泳がせていた視線を私に向けた。そして顔をマフラーから出して、はにかんで笑った。
「綾瀬さん、やっぱり字が綺麗……帰ってから読んでいい?」
私は相馬くんの笑顔に悩殺されて、コクコクと首を縦にふるだけの人になった。
そんな私を見て、相馬くんはまたフフフっと笑い、手紙を自分のダウンジャケットのポケットに入れた。それから、私の目の前に手を差し出して、私はその手にグイッと引っ張り起こされる。
相馬くんがまた、急にフハハっと顔を背けて笑い出す。
「え?まだどっか変?」
「くくく…違っ…ごめん、それ見たらやっぱり可笑しくて…」
相馬くんが指し示したポケットに、私も視線を落として「…だよね」と言って、へヘヘと笑う。
そして、互いに繋がれたままの手に気づいて、どちらともなく慌ててその手を離した。私たちは照れを隠すように、バスが到着するまでの数分間、破れたポケットをネタに笑い続けた。
「私の字…どこで見たの?」
「…さあ、内緒」
「えー…」
渡したかった私の想いは、ちゃんと相馬くんのポケットの中。
手紙を読んだ相馬くんは、明日、どんな顔で会ってくれるかな…
私は、相馬くんの眩しい笑顔を眺めて、ほんのちょっぴり期待に胸が膨らんだ。
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