0人が本棚に入れています
本棚に追加
梱包をしながら考える。
「母親が焼身自殺をした本当の理由」を知った盛本鏡花はどう思うだろう?
母親の自殺理由が娘への恨みではなく、娘のためを思ってのことだった、と知ったら? 悲しいのか、うれしいのか、それとも別の感情なのか? それに、母親の本当の姿を知ったら? 明るく活動的で優秀な母親が、実は違法薬物常用者であったこと知ったらショックを受けるんじゃないだろうか? いや、もう20年もまえのことだから、意外とショックは大きくないのかもしれないな。
……って、そんなことはどうでもいい。
「死者にもう一度会って話を聞きたい」
そんな依頼主の願いを叶えることが、わたしの仕事だ。
依頼主のその後の感情に気をつかうことは、仕事の範疇を超えている。
暖房器具のセールスマンが温暖化のことを考えないように、ファストフードの店員が客の健康を顧みないように、わたしも依頼人が〈モリーズドール〉を受け取ったあとのことを考える必要はないはずだ。
目標の120体まであと22体、余計なことは考えず、きっちり自分の仕事をこなせばいい。
そうしたらわたしは両親を殺した犯人に復讐をして、どこかに消えてしまおう。南の島で悠々自適に暮らすのもいい。高層ビルから飛び降りて死んでしまっても別にいいんだ。その後のことは、120体の〈モリーズドール〉を作ったあとで考えよう。
そんなことを思いながら、わたしは〈モリーズドール No.98〉を梱包し、郵便局へと向かうのだった。
〈了〉
最初のコメントを投稿しよう!