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今回制作依頼を受けるのは、依頼主の母、〈盛本由子〉のドールだ。盛本由子の生前の職業はこちらもやはり税理士で、自ら税理士事務所を構えていたようだが、20年前に焼身自殺により亡くなっている。依頼を受ける上で一番大切な情報、〈死亡地点〉の欄には、都内のとある公園の名前が書いてあった。
「かしこまりました。では、正確に由子さんの声を聞くために、〈死亡地点〉について詳しくお聞かせいただけますか」
わたしは盛本鏡花に問いかけた。死亡地点さえわかれば、盛本由子の自殺理由がわかる。
「それについてなのですが」盛本鏡花は眉ひとつ動かさずにいう。「一点お聞きしてもよろしいでしょうか」
「もちろん、なんなりとおききください。ドールは高額な商品ですから、すべてに納得してから制作依頼をしていただきたいと、わたしのほうも考えていますので」
盛本鏡花は小さく首を縦に振り、口をひらく。「単刀直入におききします」
「モリーさん、あなたが死者の声をきけるっていうのは、本当なんですか? その人の〈死亡地点〉に立っただけで、死者の声が聞こえてくる能力を持っている、というあの噂は」
盛本鏡花はわたしの目をじっと見つめている。彼女は嘘を見破ろうとしている。あんたの瞳が1ミリでも揺らげばこのまま退室してやるからな、という気概が感じられる。
でもわたしは嘘をついてはいないので、見破られる心配はない。
わたしは彼女の目を見つめ返しながら、深くうなずいた。
「本当ですよ。わたしには死者の声を聞く能力があります」
「その能力は、生まれ持ったものなんですか?」
彼女はなおもわたしの瞳をのぞきこむ。そんなに見てもなにも見破るものはないのにな、とわたしは思う。
「わかりません。ただ、人生のうちで死者の声を聞いた1番古い記憶は、わたしが8歳のころのものです。そのあたりの話も、巷で出回っている噂話に組み込まれているはずですが、盛本さんはご存知ないですか?」
わたしが問いかけると、彼女は片眉を少し上げた。
「ええ、噂には聞いておりますが、モリーさんご本人の言葉でご説明いただきたいと思いまして」
「そうですか。では」
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