モリーズドール ~亡者人形制作工房~

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わたしは〈モリーズドール No.98〉の青いドレスの胸元のボタンをはずし、彼女の肌を露出させた。胸下には、9つのボタンが埋め込まれている。小さなパソコンのナンバーキーパッドがはめこまれているようなかんじだ。ボタンには1から9までの数字が振られていて、それぞれに台詞が登録してある。1から順にボタンを押し、〈モリーズドール〉が話す言葉を聞いていけば、依頼主の知りたい答えがわかる仕組みになっている。 わたしはボタンに指を伸ばした。 まずは、1から。カチ、とボタンを押す。 1.『わたしが焼身自殺をしたのは、素敵なお母さんであり続けるためでした』 〈モリーズドール No.98〉の口内に取り付けてある小型スピーカーから、電子的な声が流れてくる。パソコンの読み上げソフトを使って作った音声データだ。 よし、1は問題ない。 わたしは続けて2、3、4、とボタンを押していく。 次々に、〈モリーズドール No.98〉はわたしが登録した文章をしゃべっていく。9まで押せば、盛本由子が焼身自殺をせざるを得なかった理由がわかるようになっている。 わたしは次々にボタンを押し、〈モリーズドール No.98〉が発する言葉に耳を澄ませる。 2.『私は鏡花を身ごもるまえ、とある暴力団に属していました』 3.『そのころの私は違法薬物の中毒者でしたが、鏡花を身ごもったことで、薬物の常用を辞められたのです』 4.『それどころか心をすっかり入れ替えて、必死に勉強をし、税理士として懸命に働くこともできました』 問題ない。わたしがあの公園で聞いた盛本由子の言葉をまとめたものだ。 次のボタンを押す。 5.『しかし私は鏡花が留学したことで気を抜いてしまい、再び昔の仲間に連絡をとり、薬物に手を染めてしまいました』 6.『はじめは鏡花がアメリカから帰ってくるまえに1度だけ、というつもりでしたが、これまで仕事に邁進してきた私の手には、薬物を常用するのにじゅうぶんな現金がありました』 7.『それでわたしは薬物を辞められなくなり、薬漬けになった自分の身体ごと焼いてしまうしかないと思ったのです』 8.『薬物中毒のダメな母親であることをどうしても鏡花に知られたくなかったの』
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