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〈モリーズドール No.98〉の話を聞きながら、それは焼身自殺しかなかっただろうな、と考える。薬物は死体からも検出される。自殺したところで死体を残してしまったら、解剖されて、薬物の常用を娘に知られてしまう。跡形もなく証拠隠滅をしたかったなら、たしかに焼身自殺がいちばんの方法だったのだろう。盛本鏡花は「母親が焼身自殺をした本当の理由」を知りたがっていたが、それは「娘への当てつけ」なんかではなく、「娘に薬物の常用を知られたくなかったから」これが答えだ。
残るボタンは9だけだ。
このボタンが問題なく作動すれば、この〈モリーズドール No.98〉は完成となる。
わたしは9を押す。
9.『鏡花、辛い思いをさせてしまって本当にごめんなさい』
〈モリーズドール No.98〉の口から謝罪の言葉が流れた。わたしが登録した通りの文言だ。最後のボタンである9には必ず、謝罪か感謝の言葉を登録するようにしている。死者からそのような言葉を聞き取れなかったとしても、だ。これは、高額な金銭を払ってわたしに仕事を依頼してくれた依頼主の心を少しでもいたわるためのカスタマーサービスなのである。今回の場合、本当に盛本由子からは謝罪の言葉を聞き取ったが。
「よし、〈モリーズドール No.98〉完成」
わたしはそう声に出し、〈モリーズドール〉の梱包用品を棚から取り出した。
それで丁寧に〈モリーズドール No.98〉を梱包をし、盛本鏡花の住所へ送る。
これで今回の依頼は完了だ。
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