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盛本鏡花という女性から依頼を受けてからちょうど1週間後である今日、わたしの作業机には1体のビスクドールが立っている。ドールの体長は42センチ、体重は2.8キロ、顔は陶器、身体は木材でできている。わたしが作るドールの外見は男性バージョンと女性バージョンがあるが、今回制作したのは女性のドールだ。服の色は依頼主に選んでもらっている。依頼を受ける際に書いてもらう〈ドール制作依頼書〉に服の色を選ぶ欄が設けられていて、盛本鏡花は〈青〉に丸をつけていた。だから目の前の机に立つドールは青いドレスを着ている。
これは1週間、寝ずの作業を経て、わたしが完成させた〈モリーズドール〉だ。このビスクドールの制作主であるわたしの名前が〈モリー〉であることから、このドールを〈モリーズドール〉と呼ぶことに、いつの間にかなっていた。
このあと音声の確認をして、梱包し、盛本鏡花の住所に送る。これで今回の依頼は完了だ。
自作の〈モリーズドール〉をながめる。
これは通算98体目だから、〈モリーズドール No.98〉である。今回もいつも通り、とてもかわいくできたと思う。わたしはドールを作るのが本当にうまい、といつもながらに心の中で自賛する。
ちなみに〈モリーズドール〉は一見なんの変哲もないかわいらしいビスクドールだが、価格は1体につき1000万円。支払いは一括、現金払いのみ。わたしの人形作りの腕がとってもよいとはいえ、人形1体に1000万円はいくらなんでもふっかけすぎだ。これがただの人形であれば、制作を依頼する人はいないだろう。
でも、わたしが作るのはただのビスクドールではない。
この特別なビスクドールは、死者の言葉をしゃべる。
〈モリーズドール〉は、依頼主が「もう一度だけ会って話を聞きたい」と願った死者の言葉が収録された人形なのである。
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