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〝女生徒ら〟の元へ帰る
偶々(たまたま)そこで出くわした登山者らにしてみればとんでもない所から人が出て来たという塩梅になる分けだ。だから、さてどうしようかと悩んでいるうちに数十メートル先にしゃがみ込んでいる男の姿が目に入った。目を凝らすと…なんとあの男だ。カーッちきしょう、まだ居やがったのかと憂鬱になったが仕方がない。無視して通り過ぎればいいんだとか思ってとにかく大伴さんにご注進に及ぼうとする。しかしここでふとコントラストなイメージが脳裡に浮かんだ。先でしゃがんでいる男の姿からはいかにも暗く、辛く、どうかすれば悲しくもあるような暗褐色な印象が伝わって来、戻ろうとする大伴さんら3人を思えば躍動した生命のオーラがイメージされたのだ。このアンビバレンスは…つまり…俺だ、と思ってしまう。俺はきっと、いまそのアンビバレンスな境目に居るのに違いない。例の悪夢を思い出す。俺が丹沢登山を思い立つきっかけとなったあの悪夢だ。夢の中、あの沈まんとする夕日があった。表の校門辺りから「村田くーん(いっしょに帰りましょうよ)」という女生徒らの声が聞こえて来た。「村田くーん」…え?「村田くーん」って…ああ、大伴さんが呼んでいるのだ。忘失から覚めた俺は複雑な表情をして3人のもとへと帰る。
「村田君、どうしたの?ひとりで離れちゃって。ふふふ。もう終わったわよ、カナへの説教。(カナに)ほら、カナ」渋々と立ち上がったカナが「さっき、どうもありがとな」と云ってペコリとひとつ頭を下げる。俺は「ああ、そんな、礼なんて…」と明るい笑顔で答えた。なにせ〝女生徒ら〟の元に合流できたのが嬉しかったからだ。
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