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心中における村田君の述懐(1)
無性に腹が立ったがしかしいまさらもう遅い。大伴さんの喝を我が身で受けたくなかったし、積み木崩しの災禍を、悲哀を、もうこれ以上大伴さんに味わわせたくはなかったのだ。俺は心中で『黒い霧容易(たやす)からず』を痛感するばかりである。しかし図らずもこれが、この見っともないザマが、さきほど大伴さんが俺たちに問うた「限界を感じる時はない?お決まりのパターンを抜け切れないということはない?」という設問に対する、単なる言葉ではない、我が身の情けなさ、ミゼラブルをもっての答えとしてしまった、なってしまったようだ。元来俺はいざ鎌倉という時に逡巡してしまう、いま一歩が踏み出せないという悪癖がある。すなわちいつもいつもその〝お決まりのパターンを抜け切れない〟のである。ここで云うなら、突然の男の剣幕にあっけにとられ、ただ唖然として男を見つめていたりしないで、この俺が対応すればよかったではないか。男なんだから。大伴さんが詫びるより先に、カナが(殆ど病的な?)攻撃反応を起こす前に、俺が矢面に立てばよかったのだ。それは何も男と一戦交えろということではなく(必要ならすべきだが)例えば「ちょっとあなた、失礼だが何もそこまで怒ることはないでしょう?」とでも物申せばよかったのである。それをせずにカナを諫めた結果カナにブン殴られそうになった。それはたぶん、カナが俺のこの性癖にもはや我慢ならなかった故かも知れない。富士型の大滝登頂の際に奇しくもカナが云った「あたしはさ、あんたみたいに自分の臆病さを隠すって云うか、云い繕うために、分けのわからないことを云うやつ、大っ嫌いなんだよ」の類のことだったのだろう。それはわかるがしかしお互い様を言うつもりはないがカナの攻撃性もかなり異常なのだ。
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