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01.ひさびさの東京
「ひさびさの東京だな……」
翌週の月曜日。羽田空港に降り立ったカフェ・レインキャッチャーのマスターはモノレールに乗り込む。すでに夕方の光が東京の街に差し込みはじめていた。
マスターが東京にいた頃とは異なり、外国人旅行客の姿が目立つ。目立つというよりも、どこを見ても外国人旅行客だらけだ。そのおかげなのだろう。ホテル代もあの頃よりもずっと高い。
小さなカフェの個人経営者にとってはそれなりに痛い出費だが、コーヒーの淹れ方からカフェ経営のすべてを教えてくれた師匠との勉強会となれば話は別だ。
浜松町で電車に乗り換え、マスターはひとまず宿泊するホテルを目指す。どこへ行っても人々があふれ、電車がひっきりなしに走っている。送り返し押し寄せる人々の波にマスターは戸惑うばかり。自分もまた十年ほど前まで、そんなふうに東京で働いていたのに。
そう考えると、あれからずいぶんと遠くまで来たものだと、マスターは思う。電車の窓から眺める東京の風景は懐かしさとともに目新しさが目を引く。ずいぶん風景が変わったなとも思うし、ほとんど変わってないなとも思う。不思議な街だ、東京ってところは。
マスターは予約していたホテルにチェックインして荷物を置き、ふたたびホテルを出て食事会の会場に向かった。
「大橋! ひさしぶりじゃないか。元気そうだな」
師匠がマスターの顔を見るなり大きな声を上げた。
「おひさしぶりです、師匠の方も元気そうでなによりです」
マスターの師匠に師匠は嬉しそうな顔を浮かべる。最後に会ったのは五年くらいだ。コロナのせいでなかなか会えない期間もあったけど、変わりない顔。
師匠との食事会には二十人ほどが集まった。マスターよりもずっと先にコーヒーを習った先輩たち、マスターよりあとにコーヒーを習ったという、初めて見る顔もあった。
そんな食事会の席では懐かしい話で盛り上がり、先輩が古い話を披露し、それぞれの近況を報告し合った。
それだけでもわざわざ店を休んで東京まで来た甲斐がある。マスターはひさびさの東京の夜を楽しみながら、そんなふうに考える。
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