11.暴力は現実に振るわれた

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11.暴力は現実に振るわれた

 ヒロムの母親は夫、つまりはヒロムの父親から暴力を受けていた。いわゆるDV、ドメスティック・ヴァイオレンスだ。 「異常だったんだよ、とにかく。オレの父親は少しでも気に入らないことがあると、すぐに母さんにひどい暴言を吐いて、それでも怒りが収まらないときには母さんを何度も殴って、そして蹴飛ばした。 夕食が冷たいとかさ、とにかくどうでもいい理由で」  ヒロムはワイングラスを手に取った。そして続けた。 「きっとね、父親からすれば母さんを支配したかったんだよ。なにもかも自分の思いどおりにならないと気に入らない人だったから」 「そうなんだ、ぜんぜん気づかなかった」 「そりゃ家族以外の人の前ではいい人を演じるからね。でも、おかげで母さんの体はいつもあざと傷だらけだった。顔みたいに外から見えるところは狙わないんだ。お腹とか太ももとか……」  翔太はため息をついた。そして、ヒロムが引っ越して行ったあとの家で、暗い顔をしていたヒロムの父親のことを思い出していた。そんな暴力を振るう人物には見えなかった。けど、暴力は現実に振るわれた。 「さすがに母さんはいろんなところに相談したみたい。父親の目を盗んで。そして市役所からある支援団体を紹介されて、そこの支援で東京の近くにある街に引っ越すことが決まった。母親の実家も関係ないし、父親の友人知人もいなそうなところに」  ヒロトの言葉にすべての謎が解けた。担任の先生が転校先を教えてくれなかったのも、そういう理由だ。もし、ヒロトの転校先が漏れてしまえば、ヒロトの父親はヒロトの母親を探し出すだろう。そしてヒロトの母親はどんな危険な目に遭うのかもわからない。 「それで急に引っ越したってわけか。大変だったんだな」  マスターの言葉にヒロトはうなずいた。
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