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04.二人でいれば教室で
今から二十数年ほど前の話になる。小学校五年生だった翔太には、特に仲の良かったひとりの友達がいた。放課後になればいつもゲームして遊んで、マンガを貸したり借りたりした親友、それが谷川広夢、つまりヒロムだった。
父親もいないし母親だって滅多に家に戻ってこない翔太のことを、ヒロムは最初からバカにしたりからかったりしなかった。祖父母の営む喫茶店『あまがさ』の二階から小学校に通っていた翔太。店の二階にある翔太の部屋へとやってくる数少ない友達がヒロムだった。
そして同時に、翔太もまたヒロムの家に遊びに行く数少ない友達だった。ヒロムもどちらかといえばおとなしい感じの子どもだった。自分から大勢の子どもたちの輪の中には入っていけないような、そんな子ども。まるで翔太のような。
そのせいなのかどうかはわからないが、ヒロムと翔太はいつの間にか仲良くなった。教室でどこか孤独を抱く者同士、互いになにか感じるものがあったのだろう。とにかく、二人でいれば教室で孤独を感じることもなかった。だから二人はより強固に結びついた。
「翔太くん、こんにちは。いつも広夢と遊んでくれてありがとう」
それは翔太がヒロムの家に遊びに行ったときのことだった。遊んでいる二人のところにヒロムの母親がおやつを持ってきた。
「こんにちは。おやつ、ありがとうございます」
ヒロムの母親はどちらかといえば整った顔立ちだった記憶がある。けれど、華があるというタイプではなく、いつもどこかに暗い影を宿しているようなそんな雰囲気を漂わせていた。
翔太が見かけるときはいつも、ヒロムの母親はにこやかに明るい表情を浮かべていた。けれど、どうしてもどこかしら暗い影を宿していた。その暗い影がどこから来るものなのか、まだ小学生だったマスターにはわからなかった。
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