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05.お母さんはある意味で
ヒロムの母親がおやつを差し出しながら翔太に微笑みかける。
「スーパーで売ってるものばかりだけど。今日は仕事が休みだから、おばさんが何か作ればよかったけど、翔太くんはいつもそういうものは食べ慣れてるし、おじいさんがプロでしょ? だから」
ヒロムの母親の言うとおり、ヒロムの家で出るおやつはポテトチップスやチョコ菓子みたいなスーパーで売っているものばかり。
「そうですけど、僕が食べるのは前の日の店の残り物ばかりだし、いつも同じお菓子ばかりだから飽きてるんです」
その言葉のとおり、翔太が家で食べるおやつは『純喫茶 あまがさ』で祖父母が作るケーキや焼き菓子の残り物ばかり。ヒロムはそれをうらやましがったが、翔太からすれば、物心ついたときからずっと同じ味の同じお菓子を食べてきた。さすがに飽きもくる。
そんな話を翔太が披露すると、ヒロムもヒロムの母親も苦笑した。
「ねえ、こんなこと聞いていいのかどうかわかんないけど、翔太くんのお母さんはときどき帰ってくるの?」
ひとしきり笑ったあと、ヒロムの母親は翔太にたずねた。
唐突な質問、それも母親についての話だったから、翔太の胸に暗い思いがやってきた。その思いを振り払うように翔太はこたえる。
「そうですね。ときどき、ですけど」
ヒロムの母親もまた自分の母親に興味津々なのだろうな、他の人と同じように、陰でこそこそといやなウワサ話をするタイプかあ。
心の中でため息をつく翔太の頭にそんな思いが浮かんだ。
「でも、翔太くんのお母さんはある意味で自由なのね」
自由? 意外な言葉に翔太はなんと答えればいいのかわからない。
「ちょっとうらやましいな。翔太くんは寂しいでしょうけど。あ、ごめんなさい。余計な話しちゃって。ゆっくりしていってね」
それからヒロムとおやつを食べながら何か話したり、ゲームをしたりした、と思う。そのあたりの記憶ははっきりしない。でも、ヒロムの母親が言った「自由」という言葉が、やけに翔太の胸に響き続けたのは覚えている。
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