08.カーテンが揺れていた

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08.カーテンが揺れていた

 ヒロムが転校していって半月ほど経ったある日、翔太は担任に頼みに行った。ヒロムの引っ越した先を教えてほしいと。 「気持ちはわかる、谷川くんの友達だったからね。でも、今は個人情報の保護も大事だから、先生からは教えられないんだ」  翔太は勇気を出して、同じクラスの何人かにヒロムがどこに行ったのかをたずねてみた。けど、みんな決まって同じことを言った。 「君は谷川くんのいちばんの友達だっただろ? 君が知らないなら、こっちだって知るわけないよ」  それでも翔太は諦めきれなかった。意を決してヒロムの家に行ってみた。うまくいけば引越し先がわかる手掛かりが見つかるかもしれない。特に根拠はないけれど、小学生の翔太が出した結論だった。近所の人に行き先を聞いたっていい。そんな思いを抱えて。  翔太がたどり着いたヒロムの家は、最後にここに遊びに来たときと何も変わっていないように見えた。玄関には「谷川」の表札がかかっていたし、二階の窓や一階の庭に面した掃き出し窓は開いていて、吹き込む風にカーテンが揺れていた。  玄関脇の植木鉢の位置や郵便受けもそのまま。翔太はさんざん迷いながらもインターホンを押した。いつも遊びに来たときのように。  すると、玄関のドアが開いた。中から出てきたのはヒロムの父親。翔太が一度だけ見たことのある、高校教師をしているという父親だ。
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