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1.カイ
カイは、夜の間に家を出た。
朝には売られることが分かっていたからだった。
家は貧しかった。
両親は、他の子供に比べて体が小さく、充分に働けないカイを人買いに売る算段を付けていた。カイは話を盗み聞いて知っていた。
昨日の夜は両親が妙に優しかった。ああ、いよいよか、とカイは思った。
カイは、最初は、大人しく売られるつもりだった。
親に少しはお金が入るだろう。足手まといの自分が、やっと役に立てる、よくやったと、褒めてもらえる。そう思っていた。
夜、隙間風の入る暗い家の片隅で、膝を抱えて丸くなっていたカイは、溢れてくる涙を止められなかった。
毛布も、親の愛も他の兄弟に取られた。
自分は、一体何のために生まれて来たのだろう。その思いだけが、カイの心を満たしていた。
カイは、愛されたかった。
だが、それを得ることは出来ないと、その時にはもう、分かっていた。
カイは、こっそりと家を出て行った。
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