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カイは、乾いた木が弾ける音で目を覚ました。
温かい。そう思っただけで、涙が出た。
壁際の板張りの床に毛皮を敷いて、その上に寝かされていた。身体の上にも毛皮が掛けられている。床から一段下がった土間の壁際には暖炉があり、仄暗い家の中を温かく照らしていた。
暖炉の火には鍋がかけられていた。その手前に、大きな男の背中があった。鍋の中身を杓子で掻き混ぜながら温めていた。
あの人が助けてくれたのかな……
カイは、そう思ったが、身体が思う様に動かない。横になったまま、
「おじさん……」
ようやく絞り出す。思いの外、掠れた、か細い声が出てしまった。
”髭”が振り向いた。しかし、じっとカイを見るだけで、何も言わない。
カイも、男が何も言わないので、怖くなって何も言えなくなる。
”髭”は、鍋の方に顔を戻した。
カラカラと、鍋の底に杓子が当たる音がする。
カイは、暫く”髭”の背中を見ていたが、
「助けてくれてありがとう」
と、言った。何日も行くあて無く、ひたすら走って、歩いて、腹が減って、体が熱くなって、寒くなって、倒れた所までは覚えていた。
「お前、どっから来た」
”髭”が、背を向けたまま訊いて来た。
「ミンナ」
ぽつりと、カイが答えた。
”髭”が、驚いて振り返った。
「一人でか」
「うん」
”髭”は、あまりの距離に、何故?
と反射的に思ったが、すぐに察しがついた。
あの辺りは土地が弱く皆貧しい。かといって、良い所は余っていない。運よく住めたとしても、力が無ければ奪われる。
食える物が限られるのなら、食う者を減らすしかない。
”髭”は、それ故に傭兵になった男だった。
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