2.”髭”

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   カイは、乾いた木が弾ける音で目を覚ました。  温かい。そう思っただけで、涙が出た。  壁際の板張りの床に毛皮を敷いて、その上に寝かされていた。身体の上にも毛皮が掛けられている。床から一段下がった土間の壁際には暖炉があり、仄暗い家の中を温かく照らしていた。  暖炉の火には鍋がかけられていた。その手前に、大きな男の背中があった。鍋の中身を杓子で掻き混ぜながら温めていた。  あの人が助けてくれたのかな……  カイは、そう思ったが、身体が思う様に動かない。横になったまま、 「おじさん……」 ようやく絞り出す。思いの外、掠れた、か細い声が出てしまった。  ”髭”が振り向いた。しかし、じっとカイを見るだけで、何も言わない。  カイも、男が何も言わないので、怖くなって何も言えなくなる。  ”髭”は、鍋の方に顔を戻した。  カラカラと、鍋の底に杓子が当たる音がする。  カイは、暫く”髭”の背中を見ていたが、 「助けてくれてありがとう」 と、言った。何日も行くあて無く、ひたすら走って、歩いて、腹が減って、体が熱くなって、寒くなって、倒れた所までは覚えていた。 「お前、どっから来た」 ”髭”が、背を向けたまま訊いて来た。 「ミンナ」 ぽつりと、カイが答えた。  ”髭”が、驚いて振り返った。 「一人でか」 「うん」  ”髭”は、あまりの距離に、何故?  と反射的に思ったが、すぐに察しがついた。  あの辺りは土地が弱く皆貧しい。かといって、良い所は余っていない。運よく住めたとしても、力が無ければ奪われる。  食える物が限られるのなら、食う者を減らすしかない。  ”髭”は、それ故に傭兵になった男だった。  
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