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三日後、担当編集者の原田君からの電話を切ったコタロウは小さくガッツポーズをした。原田君によると、新作は編集部でも好評らしい。締め切りギリギリで提出したが、すぐに読んでくれたのか提出してから一時間も経たないうちに興奮した様子で原田君から電話がかかってきた。
「師匠の小六郎がかっこいいっすねー! これは人気が出ますよ! 先生のこんなキャラのアイデア初めて見ました。前から温めていたんですか?」
「実は、小学生のときに初めて描いた漫画のキャラがベースになっているんです」
コタロウが小学生のときに『小江戸川らんた』というペンネームで学級新聞に描いていた漫画の主人公、それが名探偵明智小六郎だ。
三ヶ月前、SNSに書き込まれた『震えて待て』という言葉を見た瞬間、コタロウは自分がかつて描いていた明智小六郎のことを思い出して、彼を新作に登場させることを思いついた。主人公・ヨシの探偵の師匠として。
「小学生のときに描いていた漫画で、小六郎の決め台詞が、犯人たちに言う『震えて待っていろ』だったんですよね」
電話を置いたコタロウはふたたびタブレットの原稿に向かう。妹を探すため、小六郎とヨシが捜査を開始する。
コタロウは椅子の背にもたれた。あれもこれもとアイデアが浮かんできて、どうやってまとめようかーー。
「やあ、先生。お困りのようだね」
コタロウは振り返ったが、誰もいない。
また漫画の中で事件が起こったときに、彼は現れるのだろう。名探偵明智小六郎は。
でも、今はーー。
コタロウはタブレットにスーツ姿の背の高い探偵を描き始めた。
この話を描けることに、コタロウはこの上なくワクワクしている。
少年と師匠の探偵の物語を、まるで小学生のときに初めて漫画を描いたときのようにコタロウ自身が震えて待っているのだ。
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