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あるところに、山で小犬と暮らす少年がいました。 少年の名はウゴ。 ウゴは育ててくれた祖父が亡くなった後も、小犬のエルシッドといっしょに山に住み続けていました。 祖父との思い出がある山をはなれられなかったのです。 はじめこそ寂しかったウゴでしたが、いつも傍にいてくれるエルシッドのおかげで笑顔でいられました。 エルシッドもまたそんなウゴが大好き、山は不便ながらも、彼らは今日も楽しく川で魚を釣っています。 「うん、どうしたのエルシッド? 急に吠えて?」 魚釣りをしていると、いきなりエルシッドが空に向かって吠え始めました。 ウゴが小首をかしげながら声をかけると、急に空が暗くなっていきます。 今は昼間なのにどういうことだと慌てていると、ウゴとエルシッドの前に大きなものが空から降りてきました。 ドシンと地面を響かせて着地したそれを見たウゴは、上ずった声で悲鳴をあげます。 「ド、ドラゴン!?」 なんとウゴとエルシッドの前に現れたのはドラゴンでした。 大型のトカゲ、あるいは二本足で歩く動物のような見た目で、ウロコや長いシッポがあり、ツメやキバとコウモリのような翼が見えます。 ドラゴンのことを祖父から聞いた物語でしか知らなかったウゴは、そのあまりの大きさに驚いてしまい、その場から動けなくなっていました。 エルシッドはエルシッドでウゴを守ろうと前に出ながらも、だんだんと吠える声が弱くなっています。 さらにはドラゴンと向かい合うと耳を寝かせ、「くぅーん」と情けない声を出しながら後ずさってしまいました。 無理もないことです。 でも、怖くてもウゴを守りたいという気持ちが、エルシッドの態度から痛いほど伝わってきます。 「大丈夫だから! おまえはボクが守るから! 安心してエルシッド!」 怯えていたウゴでしたが、震えるエルシッドを抱きしめ、目の前にいるドラゴンをにらみつけます。 彼はドラゴンに食べられちゃうと思いながらも、せめてエルシッドだけは助けなきゃと思ったのです。 怖くても大声を出せたのは、ウゴがそれだけエルシッドのことを大好きということに他なりません。 ですが意外にも、ドラゴンはウゴたちに手を出しませんでした。 「驚かせてしまって申し訳ない、人の子よ。実はおまえに頼みがあってな」 ドラゴンは人の言葉を口にすると、ウゴに向かって話し始めました。 どうやらこのドラゴンは、山に住むという少年のこと――。 ウゴのことを動物たちに聞いてやって来たようでした。 「ドラゴンがボクに頼みなんて、いったいなんなの?」 「それはな。ワタシも人と同じように服を着てみたいのだ」 ドラゴンは頼みたいことを話しました。 なんでも昔から人が着ている服というものに興味があり、山に人の子が住んでいると聞いて、お願いしてみようと思ったと言います。 話を聞いたウゴは開いた口がふさがりませんでした。 ですが彼は祖父から、困った人がいたら自分にできることはしてあげなさいと教えられたので、ドラゴンの頼みを聞くことにします。 その小さな手で自分の胸をドンッと叩き、任せてと大声で返事をします。 エルシッドも悪いドラゴンじゃないとわかったようで、ウゴの横で尻尾を振りながら「ワン」と声をあげてました。 それからウゴたちはドラゴンを連れて、自分の家へと戻ることにします。 家に戻るまでの道で、ウゴは自分とエルシッドの名前をドラゴンに教えました。 そのときにドラゴンに名前はないのかと訊きましたが、どうやらドラゴンに名前はないようでした。 「名前がないのはちょっとなぁ。ねえ、ラゴンってのはどう?」 ウゴはドラゴンにラゴンと名前をつけました。 傍ではエルシッドが「いい名前だね」と言いたそうに吠えています。 そんな彼らを見たドラゴンは、わかったと答えて、これからはラゴンと名乗ることしました。 名前の話をしているうちに、ウゴたちは家につき、早速いろいろと考えます。 「でもどうしようか。ボクの服もおじいちゃんの服も、ドラゴンに着れるわけないし」 服をほしいといわれても、もちろんドラゴンのサイズに合うものなんてありません。 それにウゴはこれまで服を買ったことがありませんでした。 それはすべて祖父が買ってきてくれたからです。 でも売っているところは知っています。 そう、町です。 ウゴは山でとった果物を売るために、近くにある町へ行くことがありました。 町ならばきっと大きな服を作ってくれるお店があるはずだと、彼はドラゴンに言います。 「山を下りるのには三日くらいかかっちゃうけど、でも町に行けばラゴンの服もきっと作れるよ」 「なるほど。山を下りたところにある町だな。よし、ウゴ。エルシッドといっしょに背中に乗れ」 ウゴはエルシッドを抱いて、ラゴンの言う通りにしました。 ラゴンの体を上り、その大きな背中に腰を下ろします。 「しっかりつかまっていろ」 ラゴンはそういうと、翼を広げて空へと飛び出しました。 ウゴは初めて見た空の景色にあっとうされて、ずっと驚きが止まりません。 エルシッドはいうと、高いところが苦手なのかウゴの腕の中で震えています。 「ワタシなら三日どころか、数分で町へ着く。もう見えてきた」 こうしてウゴたちは町へとあっという間にたどり着き、ラゴンの服を作ってくれる店を探すのでした。
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