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翌朝、わたしが電車に乗ると、予想通り彼女はいつもの席に座っていた。彼女が持っていた定期入れに〝カワセシオリ〟と名前があるのが見える。わたしは彼女の前に立つと、すぐに声をかけた。
「ごめんなさい、ちょっといいですか」
「はい?」
「三倉高校の人ですよね」
「そうですけど」
「いつもその席に座っていた人のことを知りたいんです」
彼女は首を傾げて、少し不審げにわたしを見る。
「短髪で眼鏡をかけていて、いつも本を読んでいるんですけど」
「……ああ、山下君」
彼女は心当たりがあるようだ。わたしははやる気持ちを抑えながら、ゆっくりと言葉を繋いだ。
「最近、見かけなくなったんですけど、彼がどうしたのか知りませんか」
「あなた、山下君の知り合い?」
「いえ、そうじゃないんですが」
わたしがどう説明したらいいのか困っていると、彼女はわたしに手招きしてきた。そっと耳を近づけてみる。
「……山下君のこと、気になるんだ」
「え? はい、まあ」
核心を突かれてどきりとする。返事がしどろもどろになってしまった。
「彼、来週のサッカーの県大会に出るから、朝練してるんだよ」
文系の人かと思っていたのに、スポーツもやるとは意外だった。
「確か、総合グラウンドでやるみたいよ。観に行ったら?」
そう言って、彼女はスマホを見せてきた。県大会のホームページのようだ。
「ありがとうございます」
「結果、教えてね。応援してるから」
彼女はニヤニヤしながら、耳打ちしてきた。
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