07.秋の雨音に囲まれて

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07.秋の雨音に囲まれて

 そんな梅雨が過ぎ、夏休みには金魚の友達ができた。そして秋がやってきた。そんなふうに時間が過ぎる中で、翔太はこの家で母親と一緒に暮らす自分の姿を思い浮かべた。今まで何千回も何万回もそうしてきたように。  その一方で、翔太はその想像はけっして実現するものじゃないとどこかで知っていた。今までどんなに願っても、その願いが叶えられなかったから。母親がこの家に戻ってきても、すぐにまたどこかへと出て行ってしまうから。  翔太は寝室の部屋の壁際、背の低い棚の上に置いた金魚鉢を見つめる。秋の雨の降る夕方の薄暗い空気に金魚鉢がぼんやりと浮かぶ。一匹で静かに泳ぐ金魚、雨音が響く窓の外。もうすぐ運動会だ。憂鬱でしかたない運動会。  翔太はため息混じりに金魚を見つめ続ける。秋の雨音に囲まれて。  僕は金魚鉢から出られない金魚と一緒だ。そんな思いが翔太の胸にこみ上げる。自分の力じゃ、お母さんのところに行くことさえもできない。まるで杭でしっかりとこの家につなぎとめられたみたいに。募るばかりの無力感に秋の雨は冷たく打ちつけるばかりだった。
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