08.見えない視線がうわさ話を

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08.見えない視線がうわさ話を

 小学校のグラウンドには万国旗がはためき、スピーカーからにぎやかな音楽が流れる。砂ぼこりを立てながら白いラインに沿って全力疾走する子どもたちへ歓声が上がる。秋色の青い空の下で。  翔太の通う小学校での運動会。翔太は運動会は嫌いだった。別に足が遅いとか運動神経が鈍いわけじゃない。特に足が速いわけではないし、運動神経も抜群というわけでもないけれど。  翔太の憂鬱は昼休憩の時間だった。  周囲の子どもたちは両親や祖父母、幼い兄弟までが応援に来て、そしてみんなで豪華な手作りのお弁当を囲む。たいていは母親が早起きして作った弁当だ。けれど、翔太のところにやってくるのは祖母だけ。祖父は喫茶店が忙しいから。こんなとき、両親のいない自分がひどくみじめに思えてしかたなかった。 「おばあちゃん、この玉子焼きおいしい」  翔太は祖母が朝早く起きて弁当を作ってくれたことを知っている。そして本当に祖母の作った卵焼きはおいしくて大好きだ。けれど、どこかに感じるのは、自分に向けられたいくつもの見えない視線。  どうしてあの子のところにはお父さんもお母さんも来ていないんだろう。おばあさんと二人だけって寂しいよね。ひょっとして母親が遊びまわっていて家に帰って来ないってところの子? そんなふうに見えない視線がうわさ話をしているように感じられてしまう。  だからこそ、翔太は祖母の作ってくれたお弁当を味わって、見えない視線のうわさ話なんてぜんぜん気にしていないというフリをするしかなかった。翔太は祖母に笑顔を見せて告げる。 「おばあちゃんの作ったおにぎりって美味しいね」
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