プロローグ

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プロローグ

 その日、俺は職場から猛ダッシュで家に帰ってきた。  なんたって、大好きなホラーゲーム「エンドレス・ゾンビ」の第2作目がリリースされたんだからな!  記念すべき1作目は、俺がまだ高校生の時に発売された。その時大学生だった兄貴が遊んでたのを見つけて、俺用のセーブデータを作ってもらったのがはじまり。  一人称視点の画面でアイテムを探したり、迫り来るゾンビや化け物を撃ったりするのがめちゃくちゃ楽しかった。ストーリーもなかなか斬新で、なんと主人公は噛まれても死なない代わりに、どんどんゾンビ化していって、その度合いによってエンディングが変わる、というものだった。ホラゲでよくあるような、何度か攻撃されて体力が無くなったら死ぬわけではなく、寧ろ敵から攻撃されるほど死ににくくなって強くなるという無茶苦茶な設定だった。  だから、兄貴なんかはわざと攻撃されてほぼ無敵みたいな状態になってから、ボス戦に挑んだりしていた。  でも、そんなのは邪道だ。  俺は、一度も攻撃されないで人間のまま生き残る、という固い意思を持って、マップを周回し、武器の性能を覚え、共に行動する仲間の能力をフルに引き出すよう頑張った。もちろん、隠し武器もあらかた見つけた。  一度も攻撃されずに迎えたエンディング、それはここじゃあ語り尽くせないほど最高だった。なにより、画面の端に浮かび上がった「本当の勝利」ってトロフィー!可能なら、画面に手を突っ込んで引っ張り出したいと思うくらい、俺には価値があった。    そんな、第1作目の素晴らしい要素を引き継いで今回現れた2作目「エンドレス・ゾンビ2」は、前作に引き続きマルチエンディングのストーリーと、多様な武器、それからバディとなるキャラクターの豊富さが売りのパワーアップした作品になっている!……らしい!!  さて、前置きはこれくらいにして。  俺は、パソコンを起動してヘッドセットを耳に当てた。コントローラーを握る手が震える。 「早く…!ロード終わってくれ…!!」  Loadingの文字だけが浮かぶ、真っ黒な背景に写る自分の表情はワクワクに満ちていた。仕事で疲れたなんて気持ちは、もうどっかに吹っ飛んでる。あの頃の小さかった自分を彷彿とさせる輝きに満ちた瞳。やっぱりゲームは最高だ!  ロードの文字が消える。画面が真っ暗になる  俺は椅子に座り直し、満を持してその時を待った。  「……?」  しかし、画面は真っ暗のまま動かない。  「え、ちょ、ちょっと待ってくれよ」  俺はコントローラーのスティックをガチャガチャやった。でも、反応は無い。  「まさか、ゲーム重すぎて落ちた、とか……」  最悪の想像に俺がちょっと泣きそうになったとき    【あなたの名前を教えてください】 画面に、こんな1行が現れた。その下にはマイクのマーク。つまり、ヘッドセットのマイクから、プレーヤーの名前を発言しろ、ということらしい。  俺は取り乱した自分を恥じた。あの謎の間は、俺をゲームの世界へと没入させるためのギミックだったんだ。なにせあの1作目を作った開発者だぞ?こんな仕掛け、これからもたくさんあるに決まってる…!  俺は1度天を仰いでから、深く息を吸った。そして 「昭一」 とできる限り最高の滑舌で名乗りを上げた。 【あなたの名前は「ショウイチ」ですね】 【それでは、ショウイチ、あなたが悔いのないエンディングを迎えることを祈っています】 次の瞬間、両耳にとんでもない爆音が炸裂し、俺は意識を失った。
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