妄想彼氏はVtuber!

3/6
前へ
/6ページ
次へ
 生理のせいでお腹が痛くなって、体育を見学することにした。なるべく腰回りを温めたくて、羽織っていたジャージをお腹に巻いて体育館の端っこに座って、きゅっきゅと走り回る皆を眺めた。     六チームに分かれてバスケで勝負している皆を見ながら、「私がいたって足を引っ張るだけだしちょうどよかったな」と、完全に観客と化していた。  あ、次は皆川君のチームだ。自然と目で追ってしまう、好きな人。皆を引っ張るようなタイプじゃないけど、いつもさりげなく皆をアシストして、たいてい流れを好転させてくれる。素朴で笑顔が可愛くて、髪がさらさら。ほら、ナイスパス。バスケのプレイにも皆川君の良さが出てる。きっと、皆川君の良さに気づいているのは私だけだと思うのよね。  そうして皆川君を追いかけているうちに、試合は終わった。結果は負けだったけど、私の中ではあなたは常に勝者です、と心の中で拍手を送り、お腹に巻いたジャージの上から、お腹をさすった。  次はもとちゃんのチームかぁ、とぼんやり眺めていると、たたっと、私に近づく人影を感じて目をやった。  着ているジャージを脱ぎながら駆け寄って来るのは、皆川君だ。  皆川君は、私のところに到着すると、 「それじゃ、冷えるでしょ」  と言って、脱いだジャージをぱさっと私の肩に羽織らせた。 「え……」  としか答えられなかった。何の言葉も出ないうちに、皆川君はたたっ、とチームメイトのもとへと駆けて行った。戻って誰かと話すその横顔は、真っ赤になっていた。  その日以来、皆川君への想いはますます加速したけれど、私には告白だとか、付き合うだとかいう勇気はなく、卒業の日を迎えた。  もとちゃんいわく、「それ、皆川も祥子ちゃんのこと好きだよ!」とのことだったけど、皆川君からも特にアプローチはなく、クラスメイトとして、中学校生活を終わろうとしていた。  卒業という大イベントでいつもよりテンションが上がったもとちゃんが、昇降口の外で友人達と写真を撮り合う皆川君を指さして、私にこっそりと、力強く言った。 「ねぇ、このままでいいの? せめて、第二ボタン、もらったら?」  皆川君の学ランをじっと観察してみた。ボタンは、どこも欠けてはいないように見える。それに、皆川君のボタンを狙っていそうな女子も、今のところ見当たらなかった。  周りでは、全ボタンどころか、学ランそのものまで身包み持って行かれた男子に、華やかな女子が集まってきゃっきゃと笑っていた。 「あたしは、浅井にもらいましたよ!」  もとちゃんが、目を細めて金色のボダンを突き付けて来た。 「え!? い、いつの間に……」  これが、世に聞く、第二ボタン……! まったく、この子ったらいつの間に浅井君に……! 私は皆川君が好き、もとちゃんは浅井君が好きと、二人でお互いの好きな人の話を、これでもかというくらい重ねてきた。そのもとちゃんが、ついに浅井君から第二ボタンをゲットしたのか……。すごいな、その勇気。すごいな、卒業式パワー。  幸せオーラ全開でにんまりと浅井君の第二ボタンを眺めるもとちゃんの横で、ちらりと、皆川君を見てみた。するとふと目が合って、皆川君はさっと顔を逸らし、顔を真っ赤にした。 「祥子ちゃん、中学卒業というこの特別な日は、もう二度と訪れませんのよ?」  もとちゃんが私の両肩をとんと叩いた。確かにそうだ。好きな人から第二ボタンをもらうことに成功して余裕をかましてくるこのキャラは少し謎だけど、確かにそう。私だって、もらいたい。あなたの第二ボタン、もらいたいです。 「い、行ってくる……」  私は勇気を出して、一歩ずつ、皆川君のもとへ向かった。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

23人が本棚に入れています
本棚に追加