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皆川君は、卒業証書の筒を片手に、何人かと談笑していた。
にじりよる私。
私の気配に気づいて、ちらちらとこちらを見て顔を赤らめる皆川君。
「あの、み、皆川君」
声を振り絞った。目はつぶるしかできない。
皆川君が会話をやめて私を見る気配がする。他の男子も雰囲気を察して黙る。
「よ、よかったら、皆川君の第二ボタン、私にくれませんか」
人生で一番勇気を出したかもしれない。顔やら耳やら全身が熱くてたまらなかった。思い切って目を開けて、大好きな皆川君を見てみると、彼も彼で顔が真っ赤っかだった。
ひゅ〜、と周りの男子が囃し立てた。
やめてよ、と思ったけど、想定内でもあったから聞き流す。ただひたすら、皆川君の返事を待った。
「うん」
といって、皆川君は卒業証書の筒を足に挟んで、両手でボタンを外してくれた。
学ランから第二ボタンが外れて、それを片手で差し出す。受け取る時に、手が触れた。もうお互い、真っ赤っかだ。
「あと、これ」
皆川君は学ランのポケットから、可愛くラッピングされた小さなお菓子の袋を出して渡してくれた。
「え……?」
予想外のことに驚き、手にした二つのプレゼントを交互に見て、皆川君の顔を窺った。
「俺、春休みに引っ越すから。今までありがとう」
「えっ!」
驚いて固まっていると、男子たちが、おい森下にだけ特別かよ〜とか、オレたちにもちょーだいとか、また囃し立てている。
ひ、引っ越すんだ……。何も知らなかった。せっかく、第二ボタン、もらえたのに。嬉しさとショックが同時にやって来た。なぜこんなにショックなのかと考えたら、ひょっとしたらひょっとするかもって、ほんの少し、期待していたんだと気づいた。
その後卒業生達はひとしきり最後の時間を過ごし、学校を後にする流れになった。私も流れに乗って、複雑な気持ちのまま、校門を出た。
もとちゃんとも別れたところで、たたっ、と後ろから掛けてくる足音がした。
「森下」
ふいに呼ばれて振り返ると、顔を赤らめた皆川君が息を切らしていた。
「あのさ、俺、その。あー……あの」
「ん?」
どうして皆川君が私を追いかけて来たのか、わからなかった。やっぱりボタン返してくれ、とか言われる?
「あのさ。いつか。いつかまた会えたら、俺、森下に告る」
「……え?」
何? 何て?
「じゃ。またな」
顔を真っ赤にした皆川君は、たたっ、と走り去って行ってしまった。
私は立ち止まって皆川君の後ろ姿を見つめたまんま、言葉の意味を何度も考えた。何度考えたって、国語の成績がまぁまぁの私には、答えは一つしか導き出せない。
私のこと、好きだと思ってくれてるってこと、だよね。
どきどきして、汗が噴き出そうなほど体が熱くなって、鞄の中に大事にしまった皆川君の第二ボタンを取り出して、ぎゅっと胸に抱いた。
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