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もとちゃんから同窓会の連絡が来てから二日後、都合がつかないという理由で欠席の連絡をした。結婚して子育てをしているリア充のもとちゃんには、私の本音は伝わりづらいと思い、『どうしても仕事の都合がつかなくて』と返信しておいた。『せっかく皆川と再会するチャンスなのに~!』と熱いメッセージが返ってきた。もとちゃんらしい。
それから数ヵ月後、そんな連絡があったことすら忘れていたある日の仕事帰り、いつものスーパーに寄って、買い物カゴ片手に冷凍食品コーナーを歩いていた。今日は蜂王子様の配信はない日だから、ゆっくり買い物でもして時間を潰そう。冷凍炒飯に手を伸ばしたその時だった。
「あれ、森下?」
はっと見上げると、スラっと背の高い、バシッとスーツを決め込んだ男性が爽やかに私を見ている。誰だかわからないけど、一瞬で、かっこいいな、と思った。でもどこかで見たことがあるような気も……
「俺。那津二中の皆川です。覚えてる?」
な、は、み、皆川君……!? そう言われてみれば面影がある。皆川君だ! 中学の頃から身長がかなり伸びて、立派な大人の男性になっている。
こんなところで皆川君に会えるなんて、とんだ幸せ者じゃないの私! でも待って。私今、完全にオフモードだよ。メイクも崩れてるし、脂浮きまくってるよね。服だって何のお洒落も考えてない日だったし、こんな姿、皆川君に見られるなんて……! 会うなら会うと教えておいて欲しかった! ダイエットもして、もっと可愛い状態で会いたかった! ひ、人違いですって、逃げたい。中学時代より遥かに眩しい皆川君と、こんな近距離で面と向かって話せないよ……!
私は咄嗟に目を逸らして気まずそうな顔をしてしまった。
「覚えてないかな、さすがに。ごめんね」
皆川君は残念そうに笑って、ぺこりと頭を下げた。
買い物客が皆、聞き耳を立てながら通り過ぎていく気がする。
私が今ここで逃げたら、皆川君は『旧友に話しかけたものの、相手に覚えてもらえていなかった残念な人』になってしまう。そんなこと、あってはならない!
「おぼ、覚えてるに決まってるじゃん」
皆川君は少し驚いた顔を向けた。
「三年一組二十九番、皆川詠斗君。あんまりかっこよくなってるから、びっくりして固まっちゃったよ」
「あぁ、覚えてくれてたんだ。よかった。今日、来てなかったよね? 同窓会」
そうか、今日だったのか。すっかり忘れていた。まさか出席してきた人に遭遇するなんて考えてもみなかった。
「あ……うん、どうしても仕事の都合がつかなくて……」
こんな、明らかに仕事デキなさそうな私が何を言ってるんだろう……。嘘だって見抜かれてるかな。胸が詰まりそうになる。
「そっか。でも、まさかここで会えるとはな。俺、姉ちゃんがこの近くに住んでてさ。会場から近いから泊めてもらうことになってて」
「そうなんだ」
あぁ……会場までしっかり把握していなかった。確か、ここから二駅くらいのところだったっけ。何も考えていなかった自分に、溜息が出る。
皆川君は、スーツの内ポケットから、すっと小さな紙を取り出して私に差し出した。
「これ、俺の名刺と、裏名刺。今日みんなには、やっぱり言えなかったんだけどさ。俺、副業でVtuberやってるんだ」
皆川君の指に挟まれた小さな二枚のカード状の紙を両手でふんわりと受け取った。
ごく一般的な会社員が持つ名刺と、もう一つは。
Vtuber 蜂王子
と書かれたその横に、イラストが描かれている。
私好みの、きりっとした切れ長の瞳に、青くて長い髪。蜂がモチーフの、黒と黄色で彩られた西洋の王子様さながらのお衣装に、よく見るとお尻から針が伸びている。なんという愛おしさ。
「蜂王子様……」
思わず声が漏れていた。
「え……もしかして、知ってくれてる?」
はっと我に返った。え、何て言った? 裏名刺? 副業?
「あやっ……えっと……?」
私が話を整理しようと、名刺と皆川君を見比べていると、皆川君はゆっくりと話し出した。
「あー……。あのさ。俺が、中学の卒業式の日に、森下に言ったこと、覚えてる? 俺、引越すってのもあったけど、背も低くてひょろひょろで、自信なかったからさ。もっとかっこよくなったら森下に告白したいって、ずっと思ってた。森下に会うきっかけが欲しくて、幹事のやつに、同窓会企画してもらったんだ」
皆川君の声が、心地よく私の耳から全身を巡る。
「でも、森下は欠席だった。来ないとは知ってたけど、せめて皆に、成長した姿を見せようって意気込んで行ったはずなのに、結局Vtuberのことは打ち明けれなくて、情けなかった。だからもう、森下のことは諦めた方がいいかなって、ふてくされてたところだったんだ」
皆川君と蜂王子様が重なって見えて、だんだん、皆川君の声が、いつもヘッドフォンを通して聴いている蜂王子様の声に聞こえてくる。
「でも、ここで会えた。これは、いけってことだと思った! 俺は今、IT企業で開発職をやりながら、副業でVtuberをやってます。森下祥子さん。俺は、ずっと、あなたが好きでした。こんな俺ですが、よかったら付き合ってください」
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