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夢か現実か、二次元か三次元か、嘘か誠か、頭が追い付かなかった。とにかく、画面から出て来て私の野暮ったい部屋で二人きりでお喋りをしたかった、蜂王子様が、ここにいる。
中学卒業の日、勇気を振り絞って、第二ボタンをもらった皆川君が、ここにいる。
その二人は同一人物であり、今、私に告白したらしい。
あぁそうか、詠人だからエイト、8、蜂、蜂王子なのかな。こんな時にそんなことが思いついた。
皆川君は、右手を私に差し出して頭を下げた状態でじっとしている。開いた口が塞がらないまま、私はそっと両手で、皆川君の右手を包んだ。
「私、ショウゴンです……」
皆川君が、えっ、と言って顔をがばっと上げた。
「ショウゴン……?」
「はい、ショウゴンです……」
「え、ショウゴンさん……?? 俺のリスナーの??」
「はい……」
スーパーの閉店時間を告げる音楽が流れ始めた。
「え、え?」
混乱し始める皆川君。
「ほら私、祥子だから、ショウゴン」
「あぁ!」
私達は、お互い見つめ合って、「えーーー???!!!」と笑った。私達が居座り続けそうだと心配した店員さんが、咳払いをしながら商品棚を整理する。急いでお酒をぽんぽんと二本、カゴに放り込んで、皆川君がレジを済ませてくれた。
外に出ると、冷たい風がひゅっと吹いて、思わずマフラーを口元まで上げた。
すらっと背の高い皆川君を見上げて、自分でも信じられないくらい自然に声をかけた。
「寒いから、うちで飲む? 野暮ったい部屋だけど」
見上げた先に広がるからっと乾いた夜空には、星が点点と光っていた。皆川君の、金色の第二ボタンみたいに。
<完>
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