第八話 夏の終わりに日は|翳《かげ》る

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「ど、どうかしましたか……?」  先輩の気魄に若干押されつつもそう尋ねた。 「あの時……合評会の最後に聞かれたこと、心には色んな感情があるのに、何故暗い部分に焦点を当てたのかっていう質問。あの時様子がおかしかったけど、なにかあったの?」 「――っ」  橋口先輩の言葉に俺は返すことが出来なかった。この間の合評会の時もそうだったが、何か触れてはいけないことを思い出してしまいそうになるのだ。 「……」  橋口先輩は変わらず真っすぐ俺の目を見ている。またも俺の背中を冷や汗が伝い落ちて気持ち悪い。 「……っ」  何か言わなければ。必死に頭の中で言葉を探していると入口のドアが開かれた。 「いやぁごめんごめん、遅くなって。思ったよりも補習時間かかっちゃってさ」  扉の向こうから部長の呑気な声が聞こえてきて、俺は内心ほっとした。橋口先輩の方を見ると、表情を変えずに部長の方を見ている。 「……あれ? どしたの、この空気。なんか邪魔しちゃった?」  俺たちの間に流れる空気に違和感を抱いたのか、俺と橋口先輩を交互に見ながら言った。 「……ううん、なんでもないよ。大丈夫」 「そう。ならいいんだけど」  部長はそういうと、棚のノートに手を伸ばした。  それからは補習の様子など、他愛もないことで二人の話は盛り上がっている。俺は未だ早鐘を打つ心臓を落ち着かせたいと思い、財布を手にして立ち上がった。 「ちょっと、ジュース買ってきます」 「はい、行ってらっしゃい」  先輩たちの声に見送られて、俺は部室を後にした。    まだまだ日差しは強く、残暑は続きそうだった。
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