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「俺終わりっと」
「俺も」
残り十分。棚の上にノートが二冊戻る。
「終わったぁ!」
「……終わり」
「終わりました」
残り七分。棚の上には五冊。
「やった、真城より早かった!」
「子どもだねぇ、大沢さんは」
「何よ!」
「喧嘩しないで!」
残り五分。
「出来た人は帰る準備して! ……一ノ瀬くん、出来た?」
綺麗に並べられた八冊のノートの横に自分のノートを置いて、柳井部長が俺の手元を覗き込んだ。
「もう少しです」
ノートは白いまま。
俺は少し考えて、ノートにペンを走らせた。そしてノートを閉じると同時にチャイムが鳴り響く。
ノートを棚に戻して帰り支度を簡単に済ませた。
「準備できたら出て。閉めるよ」
部長の言葉に、みんながしゃべりながらも部室を後にする。慌てて鞄を背負って出ようとすると入口の段差に躓いてしまった。
しまった、と思ったのも束の間、地面につくと思った膝は空中で止まった。
「大丈夫か?」
見上げると俺の腕を掴んだ仲渡先輩が不思議そうに見下ろしていた。
「はい……ありがとうございます」
体勢を整えた俺の腕を離し、仲渡先輩は香藤先輩の後を歩き出した。
「どうしたの、一ノ瀬くん」
仲渡先輩の背中を見送っていると、鍵をかけていた柳井部長から声をかけられて我に返った。
「……なんでもないです」
その瞬間、今日ノートに記した自分の言葉を思い出す。
この集団は自由すぎる。だけど何故か居心地は悪くない。
「一ノ瀬―カラオケ行こうぜ」
「すみません、俺もお金ないです」
「はぁ!? 空気読めって!」
悪くない……はず。
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