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「一ノ瀬、お前水差すなよ」
「たまには息抜きも必要だぜ?」
「息抜きばっかりじゃないですか」
俺はため息を吐いて、持っていたシャーペンの先をさ迷わせた。今日もノートは白い。
「他の奴ら遅くね?」
「喜多川は用があるって言ってたし……」
俺は思い出してあっと口にした。
「部長はちょっと遅れてくるって言ってました」
ここに来るときに廊下ですれ違って、早口でそう言われたから理由は聞き取れなかったけど。
「は? やる気あるんかあいつら」
自分たちもゲームばっかりしているくせに。
「そうだ、一ノ瀬お前も混ざれ」
仲渡先輩がカードをシャッフルしながら言った。
「え」
「仲渡逃げんのかよ!」
「そうじゃねぇよ。やっぱり人数多いほうが面白いだろ。もしこれで俺が負けたらちゃんと奢ってやるよ」
「一ノ瀬が負けたら?」
「一ノ瀬の奢り」
なっ……!
「何でそうなるんですか!」
聞き捨てならない。思わず立ち上がって机を叩く。するとシャーペンが手の下敷きになって痛かった。だけどそんなこと言ってられない。
自分でも予想外の大きな声が出て、香藤先輩と仲渡先輩がびっくりしてこっちを見た。
「と、とにかく俺はしませんから」
なんとなく気恥ずかしくなって机に転がったシャーペンを握って座る。
「へぇ」
仲渡先輩の声がして顔を上げると、口角を上げた先輩と目が合った。
——―嫌な予感がする。
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