第一話 これが文芸部の日常です

2/10
前へ
/101ページ
次へ
「すみません、遅れました!」  和人と別れた俺は、慌てて文芸部室のドアを開けた。和人の質問攻めのおかげで、終礼が終わってすでに三十分以上が経っている。    これで怒られたら明日覚えてろよ、和人。    しかし、そんな俺の心配は杞憂に終わる。 「あ、一ノ瀬くんお疲れ」  返ってきた声には怒りの色は微塵も感じられなかった。何だか拍子抜けだ。 「あ、お疲れ様……です」  ドアの向こうの室内には一人の姿しかなかった。    コンクリートの床と壁に囲まれ、もう五月だというのに中は少し肌寒い。  元々何かの準備室だったらしく、普通の教室の四分の一の広さしかない。  左手には机が隙間なく置かれ、デスクトップのパソコンとノートパソコンが一台ずつある。機械に弱い俺でもデスクトップは相当古い物だと分かる。  その横に置かれたプリンターの上には布がかかっていて、それが外された所は俺が入部して一度も見たことが無い。  真ん中には三人ずつが向かい合って座れそうな机があり。その周りを囲むように丸椅子が置かれている。  そして右手には俺の肩ほどまでの三段程の棚がやはり隙間なく置かれていて、その上には辞書や文庫本、そして何冊かの漫画本があった。    漫画なんて誰が持ってきたんだろう。というかなんで五巻からなんだよ。  そしてその棚の一番上には教室にある物と同じ大きな時計と、畳半分程の黒板が存在感を示していた。    その黒板には『歓迎号の締め切り十七日まで!』という伝言の他に、『俺様参上!』と訳の分からないことが書かれている。    そして黒板の横には百均のブックスタンドで支えられた数冊のノート。  俺はその中の一冊のリングノートに手を伸ばした。 「おや、一ノ瀬くん熱心だねぇ」  ノートパソコンに向き合っていた人物はこちらを振り返ってそう言った。  小柄な体に指定のセーラー服を身に纏い、長めのスカートは彼女の膝まで隠していた。  振り返った瞬間靡いた髪は漆黒で日が当たっても色は変わらない。癖があるのか肩を少し過ぎた毛先が所々跳ねている。  柔らかい笑みを向けるその人は柳井先輩。三年、文芸部部長。
/101ページ

最初のコメントを投稿しよう!

119人が本棚に入れています
本棚に追加