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その柳井部長の後ろには開かれたノートパソコンがあって、並べられたトランプの絵があった。
またゲームしてたのか。
「何よ一ノ瀬くん、『またこいつゲームしてたのか』とでも言いたそうな顔をして」
言いたそうじゃなくて言いたいんです。
喉から出かかったその言葉を必死に飲み込み、表紙に自分の名前が書いたノートを机の上に置き、鞄を漁って筆箱を探す。
「それにしても一ノ瀬くん、早かったね」
柳井部長がパソコンに向き直りながら感心した口調で言う。俺は尚も鞄の中を漁りながら答えた。
「そうでもないです。先輩方が遅いだけじゃないですか?」
柳井部長は、ははっと笑うとのんびりと続けた。
「一ノ瀬くんも手厳しいねぇ」
いや……手厳しいというか事実じゃないですか……。
でもその一言もやっぱり口にできず、俺は筆箱探しを続けた。
「あ、あった」
弁当箱の下敷きになっていた筆箱を引っ張り出したのと同時に、その声は響いた。
「いやいや、皆さんお揃いで」
勢いよく扉を開いて入ってきた人物に、柳井部長は目も向けずに話しかけた。
「あれ、今日柔道部は?」
「休み」
その人は背負っていた大きなリュックを机の上に置いた。
ドサッと音がして机が揺れる。
体格はがっちりとしているほうだが、ひどい猫背の為身長がやけに低く見える。きっと実際の身長はもう少しあるのだろう。頭は坊主頭より少し伸びた程度で黒い細縁の眼鏡をかけていた。
文芸部部員、三年の真城先輩。柔道部員と掛け持ち部員だ。
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