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それからティアナは毎日若者のもとに通い、ドレスのためにサイズを測ったり、デザインの確認をしたり、若者のためにモデルになったりして毎日を過ごしました。
若者はとても熱心にドレスを作り、一生懸命ティアナの絵を描き続けました。その熱心な瞳にティアナは時折胸が騒ぐのを感じましたが、抑え込んで気づかない振りをするのでした。
妖精が人間の前に姿を見せるのは実はそう頻繁にできることではありません。今回こうして通うことができるのは、満月の夜のパーティーが特別なものだからです。
「そういえば、いったい何のパーティーなんだい?」
しゃっしゃっ、と紙に鉛筆を走らせながら、ティアナから目を離すこともせずに若者は問いかけました。
「私の姉が結婚するのよ。そのお祝いのパーティー」
「それは素敵だね」
「ええ、とても素敵」
二人はまた静かに、絵を描きモデルを務め、そしてドレスの細部のデザインや調整をして別れるのでした。
そうして何日もかけて作ったドレスは、ティアナにぴったりの美しいものでした。
幾重にも薄い布を重ね合わせたスカートはふわりと軽やかで、水色のそのドレスの色に合わせて作られた青い靴は靴音も耳に心地好く、踊りだしたくなるほど心が弾みます。
羽根のために大きく開いた背中部分には、若者が細い筆で絵を描いて彩りを添えてくれました。くるくると渦を巻く緑の蔓に、赤く咲く小さな花の絵です。
ティアナはほうっとため息をつきます。
「とっても綺麗なドレスだわ。どうもありがとう」
「どういたしまして。今夜のパーティーに間に合って良かったよ」
毎日ティアナを見つめ続けていた若者は、慈愛の籠ったまなざしをティアナに向けます。その視線を少し寂しく感じながらも、ティアナは強がって答えます。
「きっとこれで今夜は私が一番目立つことができるわ。そうしてきっと、良い人を見つけるの」
言いながら、声が震えます。鈍感な若者は気づきもしません。
「そしてね、いつか私も結婚をするわ。とびきり素敵な相手と。……その時に着るウエディングドレスを、またあなたにお願いしてもいいかしら……?」
若者は力強く頷きます。
「ああ、君にぴったりの綺麗なドレスを作ってみせるよ」
屈託のなささえ感じさせるその笑顔に、ティアナは微笑んで、ドレスのまま、窓辺から飛んでゆきました。
二人の出会いと別れまでの話はこれでおしまい。
それから月日が流れます――。
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