知らなかった真実

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知らなかった真実

 病院で呼ばれた久城さんを待っている間、あることを聞いてしまった。それは、数分前のこと。 「あなた、久城さんの娘さん? これから大変だと思うけど、無理しないでね」  久城さんを呼びにきた人と二人になって、突然声を掛けられる。 「違います。昔、久城さんと知り合って、久しぶりに会ったんです」  咄嗟に答えて恥ずかしくなってしまった。娘さんと間違えられるなんて思ってもいなかったけど、年齢的もそう思われても仕方ないのかもしれない。  そんなことよりも気になったことがある。 「あら、そうなの? 私ったら勘違いしちゃったわ。ごめんなさい」 「大丈夫です。あの、大変ってどういうことですか? お願いします。教えてください」  私は気になっていることを尋ねてみる。不思議な表情をして私の耳に小声でそっと囁く。 「知らない? ここだけの話よ。私、久城さんとは病院で知り合ったんだけど、あの人は大きな病気らしいの。私が通うより前にずっとここに通ってるらしいのよ」  言葉を聞いて、一瞬だけ時が止まったかのようになった。大きな病気なんて始めて耳にする。もしかして、姿を消したのには何か理由があってのことかもしれない。 「そう、なんですか」  色々考えているのに、出てきた言葉は呆気なかった。 「あなたが気にすることないわ。私、行かなくちゃ。それじゃあね」  女性は病院を去っていった。私の知らないことを知っていた。久城さんとは病院で知り合ったと行っていたけれど、久城さんのほうが通院歴が長いらしい。  私の知らないところで病気になっていたのかもしれない。もしかして、いなくなったあの日からだったとしたら……。  久しぶりに会ったのにこの気持ちはなんだろう。嫌な予感が頭を巡らせていた。きっと、大丈夫と言い聞かせて私は待った。  それから十分後。久城さんは病院から出てきた。 「待たせて悪かった。すぐ近くのファミレスで少し話していかないか? 久しぶりの再会だ。積もる話もあるだろう」 「あ、はい」  昔の久城さんからは話を聞いてくれと頼まれたことが多かった。今は頼まれるというよりも誘ってくれている。  実際、私も話したいことがあるから誘いを受けることにした。その後、私は久城さんの後ろを歩き、ついていった。  ファミレスに着くと、それぞれ飲み物を頼んで色んな話をした。  私が飲み屋を辞めた後のこと、久城さんが働いている職場でのこと。人生は大変だって、笑って楽しく話をすることができた。  私はまだあの事を聞けていない。 「あの、聞いてもいいですか?」  咄嗟に言葉が口から出た。久城さんに視線を向けると、目を細めている。 「あ、嗚呼」 「久城さんはどこか悪いんですか? 大きな病気だと聞いて、」 「まぁな。きっとあの時、たくさん飲み過ぎたせいだ。行いが悪かったから、天からの罰なんだろうな」  久城さんは答えると、苦笑いを浮かべた。言葉通り、あの時は相当飲んでいた。それに、年月が結構経っている。 「大丈夫、なんですか?」  不安になり、言葉を問い掛ける。私の気持ちとは裏腹に久城さんは頬を緩める。その奥では無理をしているような気がした。 「大した、病気、じゃない。いつかは、治るだろ。俺は、そう、信じてる」  そう言うと、コップの飲み物を一気に飲み干したかと思えば、むせて苦しそうな顔をする。 「大丈夫ですか!」  私は驚いて、顔色を窺う。何かをしたいと思ったけれど、何も出来なかった。  ずっと咳き込んでいて、喋ることが出来ないのか苦しそうにしている。咳き込んでいる久我さんを心配し、咄嗟に目の前の飲み物を差し出した。  久城さんは一瞬、躊躇っている。私が手をつけてないことを言葉にすると、手に取り、少しずつ口にした。  落ち着きを取り戻した久城さんが今日は切り上げようと提案した。  席から見える掛け時計を見て、既に二時間が経っていたことに気がつく。時間が経つのが早く感じてしまう。  長居するのも無理をさせてしまうのも悪い。私たちは会計を済ませ、早々に別れを告げた。  あとで、連絡先を交換したほうが良かったかなと思ったけれど、あの病院に行けばまた会えると思って気にしなかった。
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