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Ⅰ.悲嘆するキャットガール
――高校から帰宅すると、玄関にめちゃくちゃ底の厚いキラキラしたスニーカーが脱いであった。モノトーン主義の姉の靴でないことは明白だから、きっと友人でも来ているのだろう。
「ただいま――」
普段よりも若干凛々しい声を作りながら、リビングへと入る。高校生男子としては当然の行動だろう。2歳上の姉と同級生だとしたら、19歳。そんな最高なお年頃のお姉様が遊びに来ているかも知れないのだ。
「ああ、秀太か。丁度いいところに帰ってきたな」
姉がこちらへ来いと手招きする。なんか嫌な予感がする。
しかしそんなことなど吹っ飛ぶようなインパクトが目に飛び込んできた。
――猫がいる。
いや語弊がある。猫耳を付けた、ツインテールの女性。その手には大きな猫の手を象った、肉球グローブがはめられている。そして体にはメイド服を纏い、足には左右で模様違いのタイツを履いている。
だから要するに、猫がいる、ではなくて個性派がいる。
そしてその女性、号泣しているのである。
「うえええん、ママ、ママ、会いたいよ……ヒック」
「よしよし、つらかったな、泣いていいぞ」
姉が隣に座り、猫の頭を撫でるように優しく、キャットガールの頭を撫でる。あれ、どっちも猫か。
俺はそんなことを考えながらソファーに腰掛ける2人を呆然と眺めていた。
不意に姉が正面の空いたスペースを顎でしゃくりながら発する。
「秀太、ちょっとそこに座りな」
「なんでだよ」
「話があるから座れって言ってんの」
猫は猫でも飢餓に苦しむ殺伐とした猫、姉の大きな目はそんな威圧感に満ちていた。仕方なく、俺はソファーと机を挟んで正面にあるクッションに腰をおろした。
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