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Ⅹ.足りない愛のコンプリメント
不完全燃焼のまま会話を終えた俺が、スマホ画面を見つめて顰めっ面をさているのを見て、環野さんが尋ねてくる。
「……更紗さんという人、どうかしたの」
「なんか、嬉しそうに……泣いていたみたいだ、わけがわからない」
それを聞いて環野さんも不思議そうに首を傾げたが、ハッとしたようにポンと手をついた。そしてスマホで何やら調べ始めた。
「……なるほど。嬉しそうな理由、わかったかも」
「マジで!? 本当にすごいな環野さん。それで理由は?」
「MEWっていうのは、英語……アメリカでの『猫の鳴き声』を意味するんだって」
「ニャンじゃなくて、アメリカでは、ミューって鳴く、つてこと?」
「……そう。更紗さん、猫好きの、猫カフェ店員なんでしょ」
「そうか! だから、お母さんはMEWに変更して――」
「――猫にして、愛を、愛娘を、店舗名に補完した」
俺と環野さんは、目を見合わせて微笑んだ。今日が初対面だというのに、不思議な連帯感だった。クールな感じの環野さんだが、笑っていれば存外、年相応の女子に見えた。
「あ、そういえば更紗さん、海外の人がニャンって言っても通じないことを知っていた。だから、ミューっていうのが猫だってことも、わかったんだ」
「……大切な新店舗に、自分に関係する言葉を使おうとしていたことがわかって、嬉しかったのかな。でもその反面……」
「いないことが……寂しくなった」
そのまま俺たちは黙ってしまった。更紗さんの心中を慮ると、どうしても謎が解けたことを喜んでばかり、いられない気がした。
でも、これで良かったのだろう。
母の伝えたかった愛、娘の知りたかった愛、それが結びついたのだから。
MEWという店舗がある限り、アイはいつも、そこにある。そう確認できる。
■おわり■
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