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家族の喪失。
一人になった家で、俺は呆然と座り込んでいた。二十二年間飼っていた愛猫のミイナ。彼女が姿を消してしまった。玄関も窓も確かに施錠をしていた。だが廊下にある二重窓の一つ。そこの鍵が二枚とも開いていた。普段、開けることは無い。最近開けた覚えもない。二十年以上生きたミイナは自分で開けられるようになっていたのか、などと考えを巡らせる。そして俺に自分の最期を見せないために出て行った、と。遺体でもいい。彼女に会いたい。その思いから朝晩毎日近所を歩き回った。人の家の庭も覗いた。カラスがついばんでいたら胸が痛くなりながらも駆け寄って確認をした。だが、ミイナは見付からなかった。何処にも、いなかった。猫が最期を飼い主に見せないのは知っている。彼女が望んだ結果だとわかっている。だけど、ミイナ以外、家族のいない俺には彼女が全てだった。彼女に会いたい。ミイナと一緒にいたい。その思いは日が経つごとに和らぐどころかむしろ強まっていった。沈黙に満ちた家と孤独が一層気持ちを後押しした。
ミイナがいなくなった二週間後、一つの決断を下した。会いに行けばいい。ただそれだけの、簡単な行為で問題は解決出来るのだ。早速ロープを買って来た。天井に片方の端を打ち込み、椅子の上に立って輪っかに首を通す。この世に未練など無い。身内もおらず、仕事ももうじき定年を迎える俺に、失う物はあれども惜しいものなど何一つ無い。今、俺の胸にあるのはたった一つの思い。ミイナに、会いたい。躊躇なく俺は椅子から飛び降りた。
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