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44.お友達◆レナード視点
行きよりも帰りは道が混んでいたためか、ラゴマリアの王都への到着は予定よりも少し遅れた。
すでに暗くなり始めている空を窓越しに見ながら、隣で爆睡する売人に目をやる。口元に無精髭を生やした男は自分がどこへ連れられて行くのか、微塵も疑いなど持っていないようだった。
「……ん?もう到着したんですかい?」
「はい。ご自分の足で歩けますか?」
「ああ……ええ、」
半ば夢の中にいる男を車から引き摺り出して、歩かせる。
鈍い男もここまで来れば、自分がただの交渉のために呼び出されたのではないと理解したようだった。忙しなく周りを見て逃げ道を探しているようだが、門を潜ってしまえば何処へ逃げようとこちらのもの。そもそも逃げられないように衛兵を付けている。
「だ、旦那様は…いったい何処へ向かうおつもりで…?」
「言ったでしょう。ご同行願いたいと」
「こんな場所へ来るなんて聞いていないぞ!ここは何処なんだ!?本当にこんな場所に商会の会長が……」
「ここはラゴマリアの王宮ですよ」
ハッとしたように男の顔色が変わる。
「今、我が国ではニューショアから流れ込んだ薬物の被害が拡大しています。本来禁止されているはずなのに、どうして出回っているんでしょう?」
「………知らない…!俺はただ仲介をしただけで、」
「貴方がやり取りしていた“シシーお嬢様”はドット公爵家の養子です。ドット公爵家が営む商会は異常な利益を今期叩き出している。理由はお分かりですよね?」
「……っ!」
「ラゴマリアからニューショアへの輸出は或る種のカモフラージュ。彼らの利益の根源はラゴマリアへの薬物の輸入です。どうやって流したのかは謎ですが、開示書類にそのまま記載してないことからして、裏ルートがあるんでしょうね」
ふるふると小刻みに震える男から目を離して、存在しないという契約書のことを考えた。
出来れば証言だけでなく残るものが欲しい。
ドット公爵家がどこまでこのビジネスに関わっているのか分からないが、すべてを養女が取りまとめているとは考えられないから、公爵本人も「知らなかった」では済まないはず。
「……そういえば、“シシーお嬢様”に手紙を出しているとか?」
「あ…あぁ、仕入れが出来たタイミングで…」
「最後に出したのはいつですか?」
「三日前だから…そろそろ着くと思うけど」
「なるほど、」
タイミングよく出迎えに来てくれた執務長にドット公爵家宛ての郵便物をすべて確認するように言い渡す。
父であるコーネリウスの部屋を目指して歩いていたら、廊下の向こうからゆったりとした足取りで近付いてくる人物を見つけた。あの浮世離れしたふわふわした歩き方はきっと母フェリスだろう。
表情からするに、どうやら機嫌が悪いようだ。
長い間留守にしていたことを咎める気なのかもしれない。
「レナード!どこへ行っていたの?」
「すみません、少し用事があって……」
「お父様もまったくお話してくれないし、私ったら教育を間違えちゃったのかしら。もうっ!」
「悪いのですが…急ぐので失礼します」
「後ろの方はお友達?ちょっと年上ね…?」
振り向くと売人は困った顔でこちらを見ている。
「そうですね。まぁ、そんな感じです」
「友達といえば、イメルダが来てたわ。お茶しようと思ったけどデリックと予定があったみたいでねぇ」
「………イメルダが?いつですか?」
「うーんと、キティのお散歩をしていたから、おやつ時だったと思うけれど……あら?彼女が帰ったのを見た?」
尋ねられた使用人の女は、困惑した様子で首を振った。
フェリスは「まぁ!」と口に手を当てる。
嫌な予感がした。
売人の男の拘束を衛兵に任せて、デリックに貸し与えている別邸へと走る。今までなんとか耐えていたのに、どんよりとした分厚い雲はとうとう小雨を降らし始めた。
驚いて道を空けるメイドたちを押し除けて、階段を駆け上がると、薄らと灯りの漏れる部屋を見つけた。デリック・セイハムが寝室としている部屋だ。
「………デリック!!」
目に入った光景を見て、言葉を失った。
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