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『溺愛以外お断りです!』1
私の名前はヒメル・ルシゴーン。
ルシゴーン公爵家の一人娘です。
父のビンスと二人で暮らしていますが、それは私の愛する母が幼い頃に他界しているためです。母亡き後、父は男手一つで私を育ててくださいました。若い頃は大層婦人方の気を惑わせたという父なので、年老いても尚とても人気はあったのですが、そうした誘いにも一切乗らずに父は私との時間を大切にしてくださいました。
ところで、この話を進める上で私は自分を取り巻く二人の男を紹介する必要があります。
一人目はマルコブ・トット。
赤毛に少しそばかすのある彼は私の婚約者でした。なぜ過去形かと言うと最近私の方から婚約破棄をしてやったからです。彼は義理の妹の尻を追いかけ回すとんでもないシスコン野郎だったので、私の方から見限ってやったわけです。
そして二人目はレナトリオ・ガス。
この国の王太子である彼はマルコブの友人であり、私は婚約者を介してレナトリオと知り合いました。太陽のように煌めく金髪に、魅力的な身体。
ええ、認めましょう。
私たちはつまり、そういう関係にありました。
どういう関係かって?
それは全年齢向けのこの小説上で述べることは出来ませんから、十八禁の薄い本で確認してください。大人向けなので、間違っても公衆の場で読まないでくださいね。後ろに注意した上で読み進めることを推奨します。
とにかく、レナードの肉体は美しく、私はもう彼との夜を思い出しただけで────
◇◇◇
「グレイス……!!」
デ・ランタ伯爵家の応接室に私の怒声が飛ぶ。
何人かのメイドがビクッと肩を震わせるのが見えた。
グレイス・デ・ランタはクッキーを片手に「なぁに?」とのんびりと答える。その手には今もペンが握られていて、彼女の前にはサイン済みの本が山積みにされていた。
「これがもう刷られているの!?嘘でしょう?ザッと見ただけで一箇所“レナード”って書かれた場所があったけど!?」
「あら、本当?きっと校正ミスね」
「そうじゃなくて!この話は何?もしかしなくても、このヒメルって私のことじゃないでしょうね…!?」
「他人の空似ね、名前が似ているからと言って決め付けはよくないわ。レナトリオとヒメルは一夜限りの過ちではなくて、逢瀬を重ねていたから全然違うし」
すっとぼけた顔でグレイスは「ね?」と首を傾げる。
急に呼び出されて手伝ってほしいと頼まれたのは、彼女の処女作にサインを入れる作業。晴れて作家デビューを飾ったグレイスを祝おうと思って駆け付けたのに、気になって開いた本の中身に絶句した。
完全に私の身の上話に寄せている。
寄せているというか、これはもうほぼほぼ悪質なノンフィクションに近い。やたらと美化された父ヒンスの容姿に関する記述や、なぜか別冊が存在するというレナードとの夜についての記述を見て気が遠くなった。
「………こんなの出回ったら表を歩けないわ」
「大丈夫よ。王室の許可は得ているもの」
「え?」
「先週初版が完成したときにフェリス王妃とお茶をする機会があってね。本の話をしたら王室公認と銘打って売り出して良いって言われたから」
「フェリス様が……!?」
ほがらかな王妃の笑い声が聞こえて来そうだ。
レナードは本のことを知っているのだろうか?
おそらく知らないに違いない。婚約を発表して以降、以前にも増して公務に気合を入れて取り組んでいるラゴマリアの太陽は、今日もまた国王と共に他国から来た要人との話し合いに参加している。
近い将来、夫となるレナードにこのことを相談しておくべきかどうか悩んだ。私が今更どうこう思ったところですでに発売が迫っている本を取り止めることなど出来ないのだろうけれど。なにぶん、王妃の許可が降りているのだから。
小さく吐いた溜め息にグレイスが「大丈夫よ」と励ます。
あまり大丈夫ではないので、私は早くレナードに会いたくなった。
◆ごれんらく
ご愛読ありがとうございます。
本作をアルファポリスの恋愛大賞に参加させています。番外編追加に伴ってバリバリお気に入りが剥がれるのが悲しすぎるので、もし気に入っていただけた場合は清き一票をいただけますと嬉しいです……嬉しいです…;;
スターなど感謝しております。
お知らせでした。
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