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『溺愛以外お断りです!』3
今日こそ言わなければ。
なんとしてでもレナードを捕まえて。
中庭を行ったり来たりしながら、我が婚約者の帰りを今か今かと待っていたら「まぁまぁ!」という声と共に王妃であるフェリスが姿を現せた。相変わらず自由奔放な王妃はこのところ巣作りにハマっているようで、頭の上には巣に見立ててこんもりと膨らませて結った髪が載っている。
「誰かと思ったらイメルダじゃないの、迷子?」
「あ…いえ、迷子ではないのですが…」
「じゃあ、あれね。東洋で流行っている瞑想?」
「そうでもなくて…… あ、そういえばフェリス様!」
「なにかしら?」
首を傾げるフェリスにグレイスの小説のことを話す。
うんうんと頷いていた彼女は私が話終わるのを待ってから「それだけどね」と口を開いた。
「とても良いチャンスだと思ったの」
「チャンスですか……?」
「レナードと貴女のことを国民はもっと知りたいと思ってるわ。ただでさえ王室ってちょっと格式高い遠い世界の話みたいじゃない?この機会に塗り替えたらどうかなって」
「えっと…塗り替えるとは?」
「うん。もっとフランクな感じにね」
私は開いた口が塞がらず、しばらく言葉を探す。
王妃が突拍子もない話を始めるのは今に始まったことではないものの、グレイスが書いたゴシップ紛いの小説が王室と国民の距離を近付けるとは思い難い。
下手すれば私は略奪女と印を押されて、婚約者であるレナードの株も急降下させてしまう危険性がある。それだけは何としても避けたいもの。
「フェリス様!私は国民からの評判を落としたいわけではないのです。レナードの足を引っ張りたくありません…!」
「まぁ。立派な心構えだことね」
「冗談ではないのです。私たちの始まりが決して褒められたものではないと理解しているからこそ、これからは胸を張って彼の隣を歩けるように、」
「イメルダ」
フェリスは人差し指を立てて私の口元を指した。
私は王妃相手に熱くなってしまったことを反省しつつ、彼女が語る言葉を待つ。父ヒンスと同年代であるとは思えない少女のような瞳を輝かせて、フェリスは笑った。
「貴女は、将来どんな王妃になりたい?」
「え……?」
「堅実で賢い王妃?それとも美貌の王妃かしら?」
「私…私は…、」
どんな王妃になりたいのだろう。
王太子妃になるだけでもプレッシャーを感じるのに王妃だなんて未来の話を容易には想像できない。レナードがラゴマリアの国王となったら、私はどんな自分で在れば良いのか。
「イメルダ……私はね、王妃である前にコーネリウスの妻であり、レナードの母親なの。国民も国ももちろん大切だし愛しているわ」
「フェリス様………」
「でもね、自分を見失ってはダメ。あるべき姿に囚われて、自分の人生を楽しめないようであれば、王太子妃なんて止めてしまいなさい」
ハッとして目を見開く。
穏やかな口調であるものの、それは強い言葉だった。
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