廃リゾートホテル1週間100万円BL

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3  目が覚めると、部屋は既に明るい。  見慣れない天井に驚き、蛍光灯の形を見てようやく、ここは廃リゾートホテルのレクリエーションルームだと思い出した。  カーテンのない窓からは、溢れんばかりに朝陽が差し込んでいる。鳥の声がした。 (俺……)  ゆっくり体を起こした。  隣に千渡くんの姿はなく、彼の寝具一式はきれいに整えられていた。脳裏に昨夜の出来事がよみがえった。  身を起こし、掛ふとんをめくって下半身を確認する。何も変わった様子はない。汚れても、乱れてもいない。  下着もスウェットもはいたまま行為していた気がするが、すると、千渡くんが着替えさせてくれた……?  ダンボール横の袋から、着替えを探す。  俺が着ているのは昨夜と同じスウェットのズボン。同じ下着。 (うーーーーん?)  俺は、射精したような気がしていた。彼が綺麗に拭ってくれたのだろうか。答えは出ないが、急に現実味が湧いてきて恥ずかしくなり、膝頭に顔を埋めた。なんでこんなことに。  これってルール違反じゃないか?!  俺は恋人候補するとは言ったけど、その期間なら試しにえっちなことをしていいなんて言ってない。友達以上になるための手順を踏んでるのに、急に寝込みを襲うなんてひどい。  廊下で物音がした。  きっと千渡くんが洗面所か給湯室にいるのだろう。  俺は洗面用具とタオルを小脇に抱え、スリッパを履き廊下に出た。千渡くんは洗面所で顔を洗っている。 「おはよう」  大きめの声で話しかけた。彼はフェイスタオルで顔を拭いながら振り返った。 「おはよう、礼唯」 「おはよう!」 「ちゃんと眠れた?」  爽やかな笑顔だ。前髪が少し濡れていて、いつもと違う雰囲気でかっこいい。 「千渡くん、昨日のこと。俺は納得してないよ」 「昨日?」 「夜中のこと!」  千渡くんは表情ひとつ変えず俺を見ていた。 「夜中っていうと……? 僕は朝まで起きなかったけど」 「え……」 「……まさか幽霊? 起こしてくれたら良かったのに」 「ん…? ゆ……うれいは見なかったよ」 「そうか。僕も特に何も……。窓の外は気にしてたんだけど、見ているうちに寝ちゃったな。僕が寝転んでいた位置からは星がきれいに見えた」 「うん……。えーーーーっと千渡くん。昨日の夜って一度も起きてない? トイレにも?」 「気づいたときには朝だったし、トイレはさっき行った」 「そっか……」 「何かあった?」 「ううん。実は夢に千渡くんがでてきたんだ。リアルだったから現実かと思い込んでた。変なこと言ってごめん」 「いいよ。夢か……、1日一緒にいたからかな」  千渡くんの笑顔を見ていると、嘘をついてるようには思えなかった。だとしたらなんなんだ。本当に俺の夢? 夢ならまだいい。 「千渡くん、ちょっと手を見せてもらっていい?」 「手?」  俺は了承も得ないうちに、彼の右手を引っ張った。  顔に近づけてまじまじと観察する。こうして確認しても、昨夜の手のような気がしてならない。手のひら、手の甲、繰り返し調べてみる。  「どうしたの、礼唯」 「ああ、うん……。なんでも」  俺はその手を離し、彼を見上げる。  気まずそうに目を逸らされた。彼の耳は赤くなっていた。  やっぱり、昨日のは俺の夢か。こんな様子の千渡くんが、好きだからなんて理由で寝込みを襲うなんて出来そうもない。俺は千渡くんの横にならんで、洗面用具を置いた。気を取り直して言う。 「朝ごはん食べたら、早速探索に行こう」 ***  千渡くんと初めて出会ったのは、とある夜。  21時はまわっていたはずだ。俺はその日いろいろあって大学を出るのが遅くなり、疲れていたため自販機で微糖の缶コーヒーを買って、飲みながら歩いていた。  正門まではイチョウの並木道になっていて、樹齢何十年の大木を囲うようにベンチが置いてある。  そこで酔い潰れていた千渡くんを発見した。春には新歓も多いから寝転がっている学生はいなくもないのだが、5月には珍しい。  知らない学生だったらほっといて通り過ぎたかもしれないが、俺は彼を知っていた。  首席入学や4か国語、そのくらいは話題の種として誰でも知っていたし、華やかな容姿も目を引いた。  講義への参加が積極的で教授とやりあうことも多かったから、そこでも一目置かれていた。だが同時に、冷たそう、とっつきにくい話しかけにくい、という意見も聞いたことがあった。  実際はどんな人物なのか知りたいという好奇心もあったと思う。  俺は彼に話しかけた。彼は見た目通り泥酔していて、泣いていた。いつもの溌剌とした表情を失っていた。  そして彼の両親が離婚したという話を聞いた。  ずいぶん前から不仲であり予想していた出来事なのだという。むしろそうしたほういい、と彼も思っていた。それでも実際にその日がくると割り切れない思いがあったようだ。  しばらく話を聴いていたが、彼は途中で気持ち悪いと言い始めた。俺は偶然持っていたコンビニ袋と紙袋で吐瀉物の処理をし、水を買ってきてやり……。  正門横の通用口は22時に施錠されるため、合わせて構内を出たが、駅までの道でもぐだぐだやっていたので結局終電を逃してしまった。  そのあとの期間、千渡くんはずいぶん長いあいだよそよそしかった。  大学で顔を合わせても、はにかんで会釈する程度。もっと派手にお礼されたり、菓子折りでも貰えるのではと期待していたから肩透かしだったのはよく覚えている。  あっちからしたら、ほぼ初対面の相手の前で泥酔した姿を見せ、吐瀉物の処理までさせているのだから、気まずいのだろう。  のちに千渡くんのタブレットを拾おうとしたつもりが階段の上から落とし、破損させるという事件が起こって、そこからようやく親しくなれた。
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