廃リゾートホテル1週間100万円BL

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5  俺たちは昼飯のあと探索を再開し、なんとなくロビーへと歩いてきた。そして冷たい風が吹きこんでいることに気づき、惨状に気がついた。 「……千渡くん、ガラスの割れる音、聴こえた?」 「いや。一体いつからこうなっていたんだろう。今朝、一度表に出るべきだったな」  千渡くんは足元に気を配りながら、割れた窓ガラスを確認していた。それに続いて、俺は一通りをカメラに収める。  窓ガラスの割れた箇所は、食卓椅子一脚分ぐらいの大きさだった。見上げると少し首が痛い。  普通の建物だったら、二階部分にあたる。 「このガラスって、相当丈夫そうだよね」 「あの位置から落下して、ここだろう。結構な速度と強度のある物体じゃないと、割れない。石、……例えばお米10キロぶんぐらいの大きさの石とかね」  俺はスーパーに並んでいる10キロの米袋を想像する。千渡くんは言う。 「だとしてもそれをどうやって、あの高さから投げ込んだのかわからない。窓を割ったはずの何かが、ここにない」 「動物とかは?」 「動物だったら、今頃血まみれの死体があるはずだ。そもそも、どんなに強くぶつかったってこの窓ガラスは割れないだろう。象とか、ヘラジカ、バイソン連れてこないと。それだって、動物なら無傷じゃいられないからやっぱりここか、または外に倒れているはずだ」 「……雪男、イエティとか」 「ふざけてる?」 「ここ、冬はスキー場になるんだよ。ヒマラヤとまではいかないけど可能性はある」  千渡くんは目をまたたかせて、そしてふっと笑った。 「ごめん。幽霊もいるなら、雪男もイエティもいるかも。……何かはわからないけど、僕たちが知らない間にそれがこのホテルに入ってたってことも考えられる。わざわざ窓ガラス割らなくても、どこからでも侵入できるのに」  とにかく何かがガラスを突き破った、という事実だけは確かだ。それ以上はなんの手がかりもないことが、逆に不気味でたまらなかった。  寒いので窓ガラスの穴を塞ぎたかったが、そのへんの椅子を持ってきて届く位置じゃなかった。脚立と、穴を塞げる板状のものを探そうという話になる。  俺たちは一度部屋に戻ることにした。なにか手がかりがないかと、床を見ながらうろうろしたので、すっかり体が冷えてしまった。昨日より気温は低い。  途中二人でトイレに寄る。  千渡くんは手を洗いながら言った。 「さっきはごめん。しらけさせるような発言をしてしまって」 「いいよ。冷静な人がいるほうが俺はやりやすい。千渡くんが幽霊信じてないって知ってのは元から知ってるし」  俺も彼の隣に並び、手を洗った。 「でも千渡くんの反応って、結構意外だった」 「え?」 「だって、いつももっと大げさっていうか……、リアクション大きいのに」 「喜んだり笑ったり、人と共有したいものは強く示したほうがいいだろ? それに、まだ実際に恐ろしいものを見たわけでもないのに騒いでられないよ。僕は礼唯のほうが意外だったな」 「そう?」 「番組の大ファンっていうのはADさんとの会話でよくわかったけど、なんだか……。礼唯こそもっと、お化け屋敷みたいに騒ぐのかと思ってた」 「はは……。実際にこういうとこ来てみると、イメージと違ったっていうか」 「いつからこの番組好きなの?」 「小学校のころ。みんなで怖い話持ち寄って百物語するのが流行っててさ。その頃に番組が始まったんだ」 「百物語?」 「怪談を百個話すと最後に幽霊が出てくるっていう、儀式っていうか、伝説みたいなもの。俺たちの年代だと妖怪アニメとかゲームも流行ったし、結構なブームだったよ」 「へえ。僕も……、一度でもこの目で幽霊見たら信じようかなって思ってるんだけど、まだ」  バン。   廊下へつながるドアが、音を立てて閉まった。大きな音だったので、俺たちは会話を止めて注目する。  千渡くんはすぐさまドアに歩み寄り、ノブを引いた。ドアをあけ身を乗り出し、廊下を確認している。 「何もなし。風かな? ロビーの窓にあんな大きい穴が空いてしまったから、変な流れで風が入ってきているのかも」 「よかった、さすがに驚いた」  俺はこわばった肩を、深呼吸でほぐした。  レクリエーションルームに戻る。電気とエアコンをつけ、スニーカーを脱いで畳に寝転ぶとホッとした。それなりに緊張していたようだ。  千渡くんが用意してくれた、粉を溶かすタイプのレモンティーは甘くて美味しい。脳に染みるようだった。  少し休んだあと、用具室から脚立を探し出してきて、割れた窓ガラスにダンボールを貼り付ける。強度は心もとないが風はある程度抑えられた。意外と時間がかかってしまい、終わった頃には日暮れが近づいている。  不審なこともあったので、わざわざ夜に歩き回ることもないだろう。  俺たちは早々に夕飯をたべ、戸締まりをして眠ることにした。  部屋の出入り口は内側からしっかり施錠する。昨日気にしていた窓には、他の部屋からカーテンを取ってきて、強引に金具にひっかけて吊るした。ロビーの割れたガラスを連想すると、こんなもの気休めだが。  千渡くんは、畳に布団を敷きながらぼやいた。 「礼唯、明日はもっと窓の小さい部屋探さない? 良さそうなところがあればそっちに移動しよう。何かが窓から突っ込んできたらと思うと寝ていられないよ」 「だよね。いい部屋がなかった場合は、ここの窓側をもっと強化しようよ。何か使えそうなもの探してさ。用具室に工具はひととおりあったし」 「大賛成」  千渡くんは手をとめ、俺をじっと見る。 「礼唯、ずっと緊張してる。大丈夫?」 「そう? ……慣れないことやっているからかな」 「いつもよりだいぶ早口になってる」  気づいていなかったことを指摘され、握りしめていた掛ふとんを離した。そして、千渡くんを見て俺も笑った。 「うん……。さっきのロビーのはやっぱり驚いたよ。本当に心霊スポットなんだって。いつも番組観る側だったからギャップがあるんだ」 「礼唯、もし君がよかったら提案なんだけど……」  そう言って千渡くんは静かに目を伏せた。 「布団をくっつけない? そのほうがぼくも安心できる」  俺たちは50センチほど空いていた布団の隙間を埋めた。たったそれだけだったけど、不思議と落ち着く気がした。    「ん……」  俺はなにかの感触で目覚めた。部屋はまだ暗い。俺の太ももが、背後から伸びてきた手に撫でられているのだと気づいた。 (あれ……)  俺は横向きに寝ていた。肩越しに確認すると、手の主は千渡くんだ。  その手は、ゆっくり腿や腰を撫でていく。  手の感触をとても懐かしく思った。前にも感じたことがある。幸福がつのっていくみたいだった。 (今日も、千渡くんとずっと一緒だったもんな。夢を見るのもあたりまえか……)  俺はしばらく身を任せていたが、ふと、カーテンの隙間から見える星に気づいた。 「千渡くん、星が見える」  共有したくて俺は口にした。だがその自分の声があまりにもはっきりと聞こえ、それに驚いたせいかむせて咳き込んでしまった。苦しさに身を起こす。  息を整え、ふと横の千渡くんを見た。  千渡くんは俺を見てはいたが、無言だ。部屋は暗くて、表情までは読み取れない。  彼の反応に俺は戸惑っていた。  こんなとき、必ず優しい声をかけてくれるはずだから。  そして、視界の隅でスマホの通知ランプが光っているのを見て、一気に現実に引き戻された。夢じゃない。急ぎ立ち上がって壁の照明スイッチを押そうとすると、俺は前のめりに転んでしまった。何かに躓いたようだ。 「いっ……」 「礼唯、どうしたの?」 「電気をつけようと思って」 「そんなこと、終わったらでいい」  俺は手首を掴まれた。  そして、グイと強い力で引き寄せられたかと思えば、今度は仰向けに倒されていた。少し後頭部を打ったが痛みはそれほどない。たぶん布団のうえだ。千渡くんは、俺の上に覆いかぶさっていた。 「千渡くん」 「暗いほうが雰囲気もでるし、集中できる」 「俺まだ恋人じゃないから! 退いてよ」 「昨日は気持ちよさそうにあんあん言ってたのに」  淡々と紡がれたその言葉に、驚きすぎて声も出ない。昨日のは夢じゃなかったのか。 「本気で言ってるの、千渡くん」 「本気だ」 「冗談だとしても笑えない」 「本気だよ。きみの考えはわかってる」  俺は顎を掴まれていた。彼の指先は氷のように冷たい。 「恋人になれるかもって、さんざん気を持たせてもったいぶって。利用したあとは捨てるつもりなんだろ?」 「なっ、何……。俺、最初はっきり断った……」 「だからってきみに少しも責任はないの? オレの好意を利用してるって自覚があるはずだ。自分が優位だから、多少無茶を言ってもいいだろうと」 「……せ……、千渡くんが、もっと頼ってほしいって」 「頼った先に、その見返りは? あって当然だ。金なんかよりもっと価値のあるもの」  彼は、俺の首筋を撫でた。手の冷たさに体が震える。指先は下りていき、Tシャツの上をたどってへそ上あたりで止まる。 「普段はいいお友達として過ごしてる。格好つけてるけど、頭の中じゃきみに言えないようなことばっかり考えてる。昨日やったことだって願望。ああやって乳首でイかせてみたいって」  俺は混乱し、焦り、抵抗も忘れていた。 「正常位でやるか、バックでやるか。挿れたときにどんな反応するのか」 「千渡くん……」 「気持ち良すぎて泣いて、甘えてくるだろうって」 「…………それでもいい。本当にそうなるかもしれないし」  俺は続けて言う。 「今までごめん……。じゃあ、いいよ。セックスしよう。賞金は最初からいらないって言ってたもんね、千渡くん」  俺は眼の前の首に抱きついて、顔をよせ唇を重ねた。 「昨日の、乳首の……、すごく気持ちよかった。あんな感覚初めてだったし……また、してみたい」 「な……」 「男とそういう事って出来るのか、わかんなくて不安だった。千渡くんとの関係が変わるのも嫌だった。だから、とっさに片思いの人がいて付き合えないって言ったんだ。……でも、千渡くんなら平気だよ」 「そんな。口ではなんとだって言える」 「いいからやってみようよ。俺、昨日の感じだと大丈夫な気がするんだ」 「ただ触られるだけど、中に入れるのはわけが違う」 「時間はあるんだし、ゆっくりやればいいよ。……ね?」 「オレが求めてるのはこういうのじゃない。両思いのやつらのお膳立てなんてまっぴらだ!」  
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