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理由
一昨年の冬、親友がいなくなった。
学生の頃からの友達で、下手したら親きょうだいより大事だったひと。
家族と折り合いの悪かった彼女――鈴原レナとわたしは、学校帰りによく海岸を歩きながら駄弁っていた。
家に帰りたくないレナに付き合い、用事がない日は門限ギリギリまで話をした。
「お酒を飲んで暴力を振るう父親が嫌い。そんな父を止めない母親も嫌い。自分だけ上手く逃げてる妹も嫌い」
打ち寄せる波に向かって、呟くようにひとりごちるレナの言葉が耳に残っている。
「一番嫌いなのは、そこから逃げ出せない私自身だけど」
消え入りそうなレナの姿がまだ瞼の裏に焼きついて離れない。
わたしも一時期、家族と仲が悪かった。
流行らない個人店を経営している父。
会社員だった母は家計を支えていたけれど、会社が倒産して無職に。
わたしは高校に通うことすら諦めて働かなくてはならない可能性もあった。
でも、母方の祖父母の助けもあって切り抜けられた。
「気持ちはわかるよ」
なんて、気軽に言えるわけがない。
他人の苦しみはその人にしかわからないから。
わたしはレナが自分の力で乗り越えてくれることを願って、傍にいた。
大学進学を機にわたしが一人暮らしをすることになると、レナはちょくちょく遊びに来た。
泊まっていくことも多く、やっぱり家に帰りたくないようだった。
「早くあの家を出たい」
レナが泊まりに来ると決まって口にするひと言。
ほとんどわたしの部屋に入り浸っているけれど、帰る場所は『家』だから。
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