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ーーここはどこだろう。
ぼんやりと意識の遠のく頭の中で、山木美里は考えた。
頭の中が、真っ黒な闇にどんどん侵食されている。
それは墨汁をこぼしたようにどんどんこちらまで迫ってきて、今にも私の意識を消滅させようとしていた。
ーーなんだろうこれ。
どうしようもなく眠いときの感覚に近い。
が、眠気なんかこれっぽっちもない。
眠りに落ちるときは「万が一目覚めなかったら?」なんてこと考えないけれど、今はわずかにその恐怖を感じる。
ここでこの闇に負けてしまったら、私は、私という存在は消えてなくなるのではないか。
死んでしまうのではないか。
そんな恐れを感じさせる闇が、今にもすぐそこまで来ようとしている。
そのとき、腰のあたりにえぐるような痛みが走った。
ーーああ、そうだ。
美里は今日、家族三人で、関西の家から東北の祖父の家に向かっていたのだ。
祖母の一周忌ということで、中学校を休んでまで、一人暮らしの祖父のもとへ行く途中だった。
それなのに。
後部座席でうたた寝をしていたら、急に父がブレーキをかけ、次の瞬間、背中にとんでもない衝撃が走った。
きっとトラックにでも追突されたのだろう。
一瞬だった。
前の座席から泣き叫ぶ母の声。
私たち家族を、車からなんとか引っ張り出してくれようとする人たちの声。
パトカーや救急車の鳴り響くサイレン。
塵のように細かく割れたガラス。
そこからはあまり意識はない。
救急車の中でついに意識はなくなったからだ。
それきりまだ現実世界には戻れていない。
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