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「なんだろうここ……」
美里は暗闇のなかで、よろよろと身体を起こした。
ーー私は死んでしまったのだろうか。
あの後、結局、あの黒い闇に覆いつつまれてしまった。
美里の力はか細く、闇は巨大だったからだ。
ああ終わりだ。
ーーきっとこれで私の命は尽きた。
ーーお父さん、お母さん、おじいちゃん、それからペロ。ごめん。
ーー最後にみんなと過ごしたかったな。
そう思った瞬間、一気に眩しい光が飛び込んできた。
おや?
まさか目覚められるのか。
そう思ったが、どうやら思い違いらしい。
目の前には、緑の大地が広がっていた。
「何よこれ……」
現実世界の若干薄汚れた説得力のある草原ではなく、美化された写真のような輝かしい光景だった。
「海外の絶景映像みたい!すごーい!」
あまりに色も空気も綺麗で、つい私は駆け出していた。
正直、走るのは苦手だった。
小学生のとき、クラスのみんなに走り方を笑われたから。
それ以来、美里は親友とか家族とか、気を許せる人たちの前でしか走ってない。
でも、ここでならいいと思った。どんな走り方でも、だれも文句を言わないだろう、と。
そんなことを考えていると、目の前に川が流れていた。
「きれい……」
これもまた宝石を集めたように美しい川だった。
底が見えるくらい透き通った水に、ところどころエメラルドグリーンが混ざっている。
とても冷たいのかと思ったが、触れてみると、そうでもない。ちょうどいい水温だ。
美里は、こんな美しい川に入らないほうが勿体ない、と足元だけ浸る。
けれど、すぐに引き上げた。
「もしかしてこれ、三途の川だったりして……」
よく考えてみれば、現実の川にしては、奇妙なくらい美しい。
きっとここは天国で、これは三途の川ではないか。そんな考えが、頭をよぎった。
これを渡ってしまったら、自分は向こう側に行って帰られなくなるのかもしれない。
「危ない、危ない」
美里はここを離れることにした。
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