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いつものようにデートでレストランへ行くと、食事後になんの前触れもなく、彼は唐突に切り出した。
「他に好きな子ができた。別れよう……」
大事な話ではなく、あたかも取るに足らない日常会話をするかのように、さらっと彼はそう告げたのだ。
わたしは面食らい、何を言われているのか理解するのにしばらく時間がかかったほどだ。
「なんで!? どうして!? なんでそんなことになるの!?」
その言葉の意味を理解した後、当然、わたしは激しく食い下がった。
浮気をしているような素ぶりはまるでなかったし、彼に嫌われるようなことをした憶えも一度もない……いや、今思えばその兆しはどこかあったのかもしれない……彼との恋愛に浮かれ、曇っていたわたしの眼には映らなかっただけなのかもしれない……。
「ねえ、考え直そう? わたしに悪いとこがあればちゃんと、改めるからさあ!」
「いいや。もう君との恋は終わったんだよ。それじゃ、さよならだ」
けっきょく、いくら懇願しても彼の考えは変わらず、わたしはあっさりとその日を限りに彼との恋愛関係を解消された。
いや、恋愛関係ばかりでなく、電話もメールもSNSもすべてブロックされ、住んでいたマンションからも知らない内に引越され、わたしと彼との繋がりは完全に絶たれたのである。
後で人づてに聞いた話によると、わたしがただ気づかなかっただけで、どうやらわたしは二股をかけられていたようだ……。
ショックだった……彼との恋を失ったことは、もう立ち直れないくらいにショックだった……。
ふと気がつけば、よく彼とデートした場所をふらふらと彷徨い歩いてるほどに、わたしの精神は千々に乱れ、いつ壊れてもおかしくないくらいにやられていた。
そんな時だ……あなたをバス停で見かけたのは。
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