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もうあの頃の男子高生ではなく、すっかり大人の男になって髪型や服装も変わってはいたが、わたしにはすぐにあなただとわかった。
ただ、あなたのとなりには、三歳ぐらいの女の子の手を引いた、あなたと同年代の綺麗な女性も仲睦まじい様子で立っている。
そう……おそらくはあなたの奥さんと、その奥さんとの間に授かったあなたの子供だろう。
あの時は修学旅行で来ていたけれど、今度は親子三人、家族旅行で来たのかもしれない。
わたしが独り、淡い期待を込めて待っている間に、あなたは結婚して一家を持つようになっていたのね……。
……でも、そんなことは関係ない。
あなたが再びわたしのもとに戻って来てくれた……ずっとこの場所から動けなくなっている、わたしの所へ戻って来てくれたのだ。
今のわたしにとって、それだけが唯一、意味をなす事実である。
そうだ……今はあの女の旦那であっても、こっちの世界の住人になれば、もうそんな現世のしがらみを気にすることもない。
むしろ同じ存在であるわたしの方が、今の奥さんよりもより近しくなれるに違いない。
だから、わたしはあなたにも、わたしと同じような運命をたどってもらうことにする……。
ようやく思い出したのだが、元カレにフラれて彷徨い歩いていたあの日、わたしはふらふらと車道へ出ると、走って来たトラックに轢かれてこの場所で命を絶ったのだ。
それ以来、わたしは彷徨うことすらできず、この場所にずっと囚われることになってしまった……いわゆる〝地縛霊〟というやつなのだろう。
だとしたら、あなたにも同じ生涯の閉じ方をさせてあげれば、わたしと一緒にずっとここへ留まることができるはずである。
何年も何年も待ちに待ったあなたが、今、まさにわたしの目の前にいる……これでようやく、独り淋しく過ごす久遠の牢獄から、わたしはわたしの魂を解き放つことができるのだ!
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