キャラ文芸っぽい雑貨店へようこそ!~『ポケットの中』事件

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・冬休み前にできた彼女が、コートのポケットから手を出してくれない……なんとか手を繋ぎたい! 「そんなわけなんだけど、なんとかならないかな」 「知らんがな」  あっさり断るムエ氏に、フイ氏は食い下がる。 「君なら良いアドバイスをくれる、そう信じているんだよ僕は」 「いや、無理」 「そんな! いつもいつも難問や難事件を解決してくれる君なら、絶対に出来るって!」 「買いかぶられても困る。こっちは普通の雑貨屋。手を繋ぐ方法なんて知りません」 「僕たちは親友じゃないか!」 「じゃあ、親友として言わせてもらおう。彼女だと思っているのは、お前だけじゃないかな」 「え」 「相手はお前のこと、なんとも思っていないってこと」  ムエ氏の言葉にフイ氏は強いショックを受けたようで、見る見る涙ぐんだ。 「そんな……そんなことって、あるかよ……」  気の毒だがフイ氏の周辺では、そういった噂が絶えなかった。謎めいた高スペック美女と万事イマイチなフイ氏では社会的な格差が大きく、告白は成功したが交際は長続きしないと見られていたのである。手を繋いでくれないという悩みも、それを裏付けているようにムエ氏には思われた。  しかし親友の号泣を見るのはウザい、いや、鬱陶しい、もとい、心が痛む。 「わかったよ、何か方法を考えるよ」  フイ氏は泣き止んだ。 「そうこなくっちゃ! 君に相談すれば、なんとかなるって思ったんだよ!」  ムエ氏はキャラ文芸の舞台にありがちな不思議がいっぱいの雑貨店(中古品を含む)の店主だ。そこに売られているグッズの力でフイ氏は、進展しない恋愛を発展させようと考えたのだった。 「手袋をプレゼントしろよ」  そう言ってムエ氏が出したのは軍手だった。フイ氏は首を傾げた。 「これはちょっと……」 「イボ軍だぞ。それとも炊事用手袋が良い? 薄いけど破れにくいのがあるぞ」 「作業用じゃなく、おしゃれ用とか、可愛い系をお願いします」 「生憎だが在庫なしだ。でも、代わりの物がある。コートだ」 「コート?」 「外側にポケットが無いんだ。不便だから売れないと思ってたんだけど、こういう使い道があった」  ムエ氏は店の奥から立派なコートを持って来た。示されたコートを見てフイ氏は言った。 「これ、男物じゃない?」 「いや、男女兼用だ。見ろ」  そう言ってムエ氏はコートを着た。 「彼女は背が高いから、これで大丈夫だ」  サイズ的にはあっていても、フイ氏にはコートが女性らしさに乏しい気がした。その旨を伝えると、ムエ氏は小さな花の胸飾りをコートに付けた。 「簡単に着脱可能だからクリーニングに出すときは外せばいい。どうだ、似合うだろう?」  書き忘れていたがムエ氏は優美な美青年である。思わずフイ氏は見惚れてしまった。 「試しに着てみるか?」  そう言われてコートを着てしまったのは、自分もなにかの間違いで自分も美青年になってしまうのでは……とフイ氏が勘違いしたからである。ほんの遊び心だった――だが、その幻想は鏡に映る自分を見た瞬間に砕け散った。 「どうだ?」 「う~ん、どうだろう……彼女に聞いてみるかなあ、コート要るって」 ・友達とお遊びで服を交換。元に戻すと、ポケットの中に“あなたは狙われている”と書かれたメモが……。  フイ氏はコートをムエ氏に返した。その内ポケットから封筒がはみ出していることに二人は気付いた。先程まで、そんな封筒はポケットの中に入っていなかった。ムエ氏は訝しげに開封した。封筒の中には“あなたは狙われている”と書かれたメモが入っていた。 「何これ?」 「さっきまでなかったよね?」  そのときだった。店の物陰から怪しい影が現れた。その影は冷たい声で言った。 「動くな。動いたら二人とも命がなくなると思え」  顔を動かしても危険そうな雰囲気が濃厚に漂っていたので、ムエ氏とフイ氏はダルマさんが転んだ状態で静止した。影の人物は満足そうに言った。 「そうだ。それでいい。何もしなければ危害は加えないし、用が済んだら帰る。さて、要件を伝えよう。要件というのは――」 ・ポケットの中のビスケットを叩いても割れるだけ……のはずが、本当に増えた!? 「ポケットの中のビスケットを叩いても割れるだけ……のはずが、本当に増えるポケットのある服があると聞いた。それを出してもらおう」  影の人物は、そう言った。ムエ氏は顔を動かさずに言った。 「動けば殺されるんだろ?」  影の人物は否定した。 「それは除外する」 「そこに吊るしてある子供用の短パンだ。勝手に取っていいぞ」  ハンガーに掛けられて並ぶ短パンがいっぱいあって、影の人物が困惑した次の瞬間だった。店の扉が開き、コートを着た美女が店内へ飛び込んできた。影の人物は慌てた。 「しまった、脱出だっ!」  そう叫んで影の人物が闇の中へ消える。店へ現れた美女が交際中の女性であることに気付いたフイ氏は目を丸くした。 「え、なに、どういうこと?」  美女はキラキラした小型ピストルを構え、その銃口を闇の方へ向けていたが、影の人物が消え去ったことを確認し、手を下ろした。様々な雑貨を扱うムエ氏は、そのピストルが現代社会の製品というより未来の銃器に思えたので、美女に聞いてみた。 「子どもの玩具の光線銃みたいですけど、それは普通の拳銃なのですか? モデルガンも扱っているので詳しいのですが、それをカタログで見たことがないです」  フイ氏は別の質問をした。 「ちょ、ちょま、ねえ、ちょっと待って、どういうこと?」  自分は未来から来たタイムパトロールで時間移動する犯罪者を逮捕しているる、とフイ氏の彼女は言った。そしてムエ氏に小型ピストルを見せ「これは未来の兵器」と説明してから、それをコートのポケットに入れた。 「コートのボタンを閉めると早撃ちが出来ないから、銃を握ったままポケットに入れているの」  その説明を聞いてムエ氏は頷いたが、フイ氏は首を横に振った。 「ちょ、ねえ、ちょっと、ちょっと待って! 君は僕の恋人だよね。未来から来たタイムパトロールなんて、嘘だよね!」 「ごめんなさい、犯罪者の目をくらませるために、偽装交際をしていたの」  その言葉を聞いて、フイ氏は肩を落とした。ムエ氏は冷ややかな声で言った。 「おとり捜査ってやつか? ずいぶん残酷な方法だな」 「お詫びの意味で、警告の手紙を四次元郵便の速達で出したわ」 「ポケットに入っていた封筒の送り主が君か。あれが役に立ったとは言えないぞ」  美女はフイ氏とムエ氏に謝った。フイ氏は顔を上げることが出来なかった。ムエ氏はビスケットが無限に出てくる短パンを顎で示して言った。 「それを持って行ってくれ」  美女は怪訝そうに言った。 「いいの? とても珍しい品よ」 「あれが欲しくて犯罪者が来るのなら要らん。その代わり、二度と近づかないでくれ」  美女は短パンを手に店を後にした。しばらく経ってからフイ氏が言った。 「貴重な品だったんだろ? 僕のせいで、損をさせたな」  謝るフイ氏にムエ氏が言った。 「ずっとポケットの中に入れっぱなしになっているビスケットだから、カビが生えているんだ。カビの生えたビスケットが二つになっても嬉しくないよ。それに」  ムエ氏は足元から砂で汚れたズックを出した。 「これは砂金混じりの砂が中から湧いてくる魔法のズックだ。こっちの方が大事だよ」
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