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「あと、この付近を散歩してた。……俺、ここら辺詳しくないし」
「そっか」
なんてことない風に相槌を打って、アレクの顔を見つめる。
その横顔が何処か寂しそうに見えるのは、気のせいじゃないと思う。実際、アレクは寂しいのだろう。
……世にいう、ホームシックなのかもしれない。
「それにしても、ここら辺はすごいね。……なんでもあるよ」
「そうかぁ?」
「うん。近くに買い物できる場所もあるし、交通手段だってある。俺の故郷とは大違いだよ」
にっこりと笑ったアレクがそう告げてくる。……故郷。その単語に俺の胸がずきんと痛む。
どうして、俺が胸を痛めているのかはよくわからない。
(っていうか、アレクの故郷が少し気になる……)
インキュバスの住んでいた世界って、どんな世界なんだろうか?
そう問いかけようかと思ったけど、今、故郷については尋ねられたくないだろう。
俺はそう判断して、口を閉ざした。
そうすると、場に重い沈黙が走る。
無言の空間。窓の外ではカラスが鳴いている。
「な、なぁ、アレク」
「ん? どうしたの?」
意を決してアレクに声をかけると、アレクはきょとんとして俺のことを見つめてくる。
……考えなしに声をかけたけど、なんて言おうか。
頭の中で必死に考えを張り巡らせて、俺は「……出掛ける?」と口走ってた。
「ど、こに?」
「……買い物。夕飯の、材料を買いに」
当たり障りのない回答をする。ちょうど材料も尽きていたし、せっかくだしアレクの好みも知りたい。
「ここから少し行った先にスーパーがあるんだよ。そこ、今日は特売日だし」
週に一度、そのスーパーは特売をする。安い品はそのときによって変わるけど、まぁ大体なんにでも使えるものが多い。
「嫌だったら……俺一人で、行ってくるけど……」
なんか無性に自信がなくて、俯いてそう付け足す。
(っていうか、アレクは人と出掛けるのは大丈夫なタイプなのか……?)
ちょっと、そこは不安かも。
けれど、そんな俺の心配をよそに、アレクは「行く」とはっきりと口にした。
「俺、ここら辺のこともっと知りたいんだ」
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